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4.火花散る(18)
夏休みも残すところ、最終週だけになった。
夏期講習で忙しかった柊翔に比べると、俺の方は、時々、雅春や和人と遊びに行ったり、母親の入院している病院に行ったりしていた。課題は早いうちに終わらすことができていたから、これなら、夏休みの間だけのバイトでも、やればよかったかな、なんて思っていた。
そんな俺のところに、太山さんからLIMEのメッセージが届いた。
『暇してるなら、うちの道場に遊びに来ないか?』
俺がのんびりしてることを、柊翔からでも聞いたのだろうか。
今更、剣道なんて、と思ってるのに。
その時、ふと、亮平の言葉を思い出す。
『また、剣道やれよ』
亮平は全国大会で準決勝で敗れた。あいつは、この先も続けるのだろうか。
「俺には関係ない」
そう頭を振ってから、太山さんのメッセージを見る。
あいつとは関係ないけれど。少しだけ、見に行ってみようか。
そんな気持ちが湧いてきた。
「やっと、来てくれたんだ」
ニコニコしながら俺を道場の方へ案内するのは、太山さん。
「当たり前ですけど、剣道着着てるんですね」
さすが柊翔の従兄。普段は柔らかな印象なのに、剣道着を着ると少しだけキリッとして見える……似合うし、カッコイイ。でも、柊翔のほうが凛々しい感じがするけど。
「そりゃ、そうだろう。あ、獅子倉くんは、持って来た?」
「いえ、今日は見学だけさせてもらおうとか」
まだ、やる気が起きたというほどでもないから。ちょっと気になるってだけで。
「よければ、貸すよ?」
「いえいえ、いいです」
慌てて手を振って断ると、
「似合うと思うんだけどなぁ」
「……いや、似合うとか、そういうの関係ないですから」
苦笑いしながら道場に入った。
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