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4.火花散る(20)
日高さんが子供たちの相手をしている間、太山さんはお母さん方を相手に指導しているようで、お母さんたちも若い太山さんに教わって楽しそう。
「あなたも、こちらに通われるの?」
お子さんの付き添いなのだろうか。俺と同じように保護者用のパイプ椅子に座っているおばさんが、声をかけてきた。
「い、いえ、まだ決めたわけじゃ」
苦笑いしながら、太山さんのほうを見る。教えるのを楽しんでるみたいだ。そういえば、高校の剣道場では、あんまり指導してるのを見たことがなかったな。今度、のぞきにいってみようか?
「あなたみたいな、カワイイ子が来たら、他のお母さん方も、剣道やりだすかもしれないわね」
うふふ、と笑いながら、おばさんは、子供たちのほうを見やる。俺、かわいくないですけど。
「い、いやぁ~」
参ったなぁ、と笑いながら、日高さんのほうを見ると、目があってしまった。スッと目線をはずされる。
あ、あれ?
俺、なんかやらかしたかな、と不安になっているところへ、師範と思われるおじさんが現れた。
「君が、獅子倉くん?」
うわっ、めっちゃ、カッコイイんですけど。
身長はたぶん亮平くらい、紺地の剣道着が似合ってる。日高さんくらいのお子さんがいるなんて、思えないくらい若々しくて、びっくりだ。
「こ、こんにちは」
「来てくれてありがとう。今日は見学だけ?」
「は、はい」
「せっかくなら、少しやってけば?」
「い、いえ、俺……しばらく、やってないし」
「そうか。じゃ、しばらく見てて」
「はい」
ニコリと笑って、颯爽と戻っていく。
……この流れは、このままやる羽目になるんだろうか。ちょっと、不安になってきた。
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