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4.火花散る(23)
痛い。
痛い。
柊翔の視線が。
痛い。
「え、本当?こんなにカワイイのに?」
……え?
「か、かわいいって……」
「あ、カッコイイのほうがいいよね」
男としては、女子から"カワイイ"と言われるのは微妙なもので。
……でも、柊翔も『カワイイ』って、時々言うし。チラリと柊翔を見ると……なんか、笑顔なのに、目が笑ってませんが。
「アハハ。か、かわいいっていうのは、ちょっと……」
「だよね。ウフフ」
ちょっと頬を染めてる日高さんは、ニコニコしてるけど……柊翔は、なんだか、変なオーラが出ている気がする。
「ところで、獅子倉くん、剣道の実力的にどうなの?」
「え?」
「小学校までやってたんでしょ?」
「あ、はい……一応、2級でしたけど……」
「中学でもやればよかったのに」
「あ……そう……ですね」
なんだか、居心地悪くなってきたな。
「要、俺、そろそろ帰るけど、お前、どうする?」
椅子から立ち上がりながら、柊翔が言ってきた。
これはチャンス、と、
「あ、お、俺もそろそろ帰ります」
「えー、せっかくなら、二人の剣道見たかったのに」
「す、すみません……」
「俺はもうちょっと残るわ」
「は、はい。今日はありがとうございました」
ペコリと頭を下げると、二人で剣道場を出た。
「……」
「……」
なぜだか、不機嫌そうに隣を歩く柊翔を、チラチラと見るしかない。思わず、そっと、ため息をついてしまう。
「……ごめん」
ポツリと、呟く柊翔。
「……え。なんで謝るんですか?」
柊翔を見ると、手で隠している顔が真っ赤になっていた。
「いやぁ……」
そう言いつつ、俺の顔をチラリと見る。俺は俺で、なんでかわからなくて、きょとんとしてしまう。
「……過去にはライバルいなくても、未来はわからないって、実感させられたわけ」
……は?
「で。全然、俺って、余裕ねぇなって」
眉を下げて情けない顔をしながら言うけど、俺にはなんのことやら。
「どうしたんですか、いきなり」
「……要」
柊翔もきょとんとした顔をしたかと思ったら、プハッと笑った。
「もう、本当に、どうしたんですか。変ですよ?」
「いや、いいんだ。わかんなきゃ、それで」
そう言って、俺の肩を抱くと、自分の頭を俺の頭にグリグリとしてきた。
「い、痛いですって」
「我慢しろ、俺の愛情表現だから」
「でも、痛いです~!」
夏の夕暮れに、俺たち二人の影が並んで伸びていた。
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