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5.夏の終わり(1)

 夏休み最終週。来週から、新学期が始まる。  佐合さんやヤスとも久しぶりに会うのが、今から楽しみではあるけど。時々、二人のラブラブな様子をLINEで見せつけられるたびに、ほほえましい気持ちと、羨ましいという気持ちが、ぐちゃぐちゃとまじりあった気分になってしまう。  俺たちだって、ラブラブのはずなんだけど、現実には、この休みに会える時間は、それほどなくて。剣道の見学に行った後、また予備校の授業がぎっちりつまってる柊翔に、会いたい、なんて言えない。  大きくため息をつきながら、スマホの中の微笑んでる柊翔に、キスをする。 「会いたいなぁ……」  冷房の効いた俺の部屋で、スマホの柊翔とにらめっこ。 「今頃、何してるのかなぁ」  俺って、バカか?と思うくらい、柊翔に会えないことで、悶々としてる。 「やっぱ、俺ってバカ?」  画面の柊翔に聞いてみる。その時。着信音と共に、LIMEのメッセージが表示された。 『明日、花火。忘れてないよな?』  ……忘れてた。  いや、忘れてたというよりも、こんなに忙しい柊翔が、俺に時間を作る余裕なんかないって思ってた。 『忘れてません』  嘘だけど、嘘じゃない。期待してなかったから、つい嬉しくなって、ニマニマしてきてしまう。 『少し早目に、うちに来い』 『?』 『浴衣あるから』  !?  そうだった。  おばさんが、俺のも用意してくれてたんだった。そして、もう一度、柊翔の浴衣姿が見られる! 『わかった。16時頃でいい?』  ちょっと早いかなぁ?と思いながら返事を書いたけれど、なかなか既読がつかない。  ……あ。  この時間、もしかして講義中だったのかもしれない。仕方がないので、スマホを置いて、下のリビングに向かうと、珍しく、親父が家にいた。 「……あれ?今日は仕事じゃないの?」  親父は、俺の声に驚いて、振り向いた。 「あ、ああ。仕事じゃないが、この後、ちょっと出てくる」  そそくさと、リビングから出て行く親父にを、変なの、と思いながら、テレビをつけてみる。だけど、見たい番組があるわけでもなく、これなら、自分の部屋でスマホのゲームやってるほうが、マシか、と思う。  冷蔵庫を開けて、麦茶を取り出した時、 「出かけてくる」  玄関先で親父の声がした。 「ああ。いってらっしゃ……い」  言い終わらないうちに玄関が閉まる音がした。  どこに出かけたのだろう、と思いながら、グラスに注ぐ。 「まぁ、俺には関係ないか」  そのまま、自分の部屋に戻った。 「あ、返事きてるかな……」  何気なくスマホを見ると……来てないし……見てない。 「忙しいんだな……」  ふいに、一人の部屋が、すごく寂しいものに感じた。

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