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5.夏の終わり(2)

「あら、要くん、いらっしゃい」  柊翔から、16時は早すぎる、という返事をもらったけれど、早く顔が見たくて、ついつい、時間通りに家に行ってしまった。 「柊翔はまだ予備校から戻ってきてないんだけど、上がって待ってなさいな」  ニコニコ笑顔で迎えてくれたおばさんは、「少し早いから、アイスでも食べてて」と、大きいカップのアイスを渡して、リビングで一緒に食べ始めた。 「柊翔は、あと1時間くらいしたら戻ってくると思うだけどね」 「はい……やっぱ、早すぎましたね」  アハハと苦笑いしていると、 「えー、おばさんは嬉しいけど。柊翔いると、なかなか要くんとお話できないし」  キラキラした眼差しで俺を見てくるおばさん。  違う意味で、その視線が痛い……。 「そうだ。柊翔が帰ってくる前に、浴衣に着替えちゃおうか。で、写真とって、お母さんにメールしよう」 「え、あ、いいですって……」  俺の声も聞かずに、リビングから出て行ったおばさんは、すぐに俺のために用意してくれた浴衣を持ってきた。 「どう?柊翔と色違いなんだけど」  おばさんが見せてくれた浴衣は、白地に細いグレーの線が入ったもので、柊翔のは黒字にグレーの線が入ったものだったのを思い出した。 「これ、本当に俺が着ていいんですか?」  なんだか申し訳なくてそう言うと、 「いいの、いいの。お母さんからも頼まれてるからね」  着つけてあげようか?と言われて、慌てて、自分で着ます!と、浴衣を持って、柊翔の部屋に駆け込んだ。  柊翔のいない部屋……。  勝手に入ってしまってから、ドキドキしはじめてしまう。  柊翔の部屋に来るのは、あの事件以来で。それだって、柊翔や太山さんもいたから、別になんとも思わなかったけど。柊翔の匂いがして……ドキドキが加速してきてる。 「と、とりあえず、さっさと着替えるか」  早く着替えないと、柊翔が帰って来ちゃうかもしれないし。  Tシャツもハーフパンツも脱いで、ボクサーパンツだけになる。  ふと、柊翔の部屋の姿見に映る自分の身体を見ると、なんだか貧相だな……と思ってしまう。小さい頃のほうが、もっとぽっちゃりしてたけど、身体が大きくなるにつれ、ぽっちゃりが抜けて、なんだかガリガリになってしまった気がする。 「こんな俺じゃ……」  抱き心地なんかよくないよな……と、心の中でつぶやいてしまう。  浴衣を手に取り、羽織ったところで、部屋の扉がいきなり開いた。 「あ、悪いっ」  ドアを開けたのは柊翔で、慌てて閉めようとするから、 「あ、だ、大丈夫ですよ?」  慌てて浴衣の前を合わせて、帯を締めようとした。俺の言葉に、柊翔はそのまま部屋に入ってきて、鞄を降ろす。 「要のはそういう色のなんだ。」  そう言ったかと思うと、後ろからギュッと抱きしめてきた。 「ん~、新しい浴衣の布の匂い……と、要の匂い」  クンクンと、俺の首のあたりの匂いを嗅いでくるから、くすぐったくて、身をよじってしまう。 「し、柊翔……くすぐったい」 「疲れてるから栄養補給……」  そう言ったかと思うと、首のところをペロリと舐めてきた。 「ひゃっ!?」  せっかく帯を締めようとしてたのに、柊翔がちょっかいをだしてくるから、帯を落としてしまった。

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