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5.夏の終わり(3)
「し、柊翔、マジでやめ……て……」
柊翔の手が、俺の胸を撫でてきた。
ゾクゾクしてくるのは、怖くてじゃない。もう、柊翔の手は怖くない。むしろ、期待してしまってるから。
「ん~、でも、こんな機会あんまりないし……」
胸を撫でていた手が、脇腹を撫で、少しずつ俺の前のほうに、手を伸ばしてくる。期待と不安で、だんだんと息があがってくる。
「し、柊翔……おばさん、来ちゃうから……」
「……あ~。来ちゃうよなぁ……」
ガックリと俺の肩に頭を落とす。
自分で言っておきながら、この先がないことにがっかりしてる俺。
柊翔には気づかれませんように。そう思ってたら。
「じゃあ、キスだけ」
そう言って、俺の顎に優しく手を伸ばして、軽くキスをした。
そのキスが物足りなくて、自分でも驚いてしまう。そして、つい、眉間にシワをよせてしまってた。
「なに?」
そんな俺を楽しそうにみてくるから。
「な、なんでもありませんっ」
自分の顔が真っ赤になってるのもわかってるけど、ぷいっと顔を背けて、落ちてる帯を手にとった。帯を締め終えて、振り向くと柊翔がニヤニヤして立っている。
「……」
そのニヤニヤ笑いを、どうしたら止められるのか、ムッとしたまま見つめてると、スッと真面目な顔になって、今度はギュッと抱きしめてきた。
「もっとキスしていい?」
柊翔の熱い瞳が、俺を身動きできなくする。
ドキドキする音が、柊翔にも聞こえてしまうんではないか、と思うくらい、自分の身体の中で鳴っている。
「……し、して……くださっ…んっ!?」
言い終わらないうちに、柊翔はまるで噛みつくように俺の唇を塞いだ。
落ち着いたイメージのあった柊翔なのに、今日はいつもと違う。何かを追いかけるように舌をからませてくるから、自分でもおかしなくらい、ただひたすらに柊翔のことを求めてしまう。柊翔の背中に回した手が、ギュッとTシャツをつかむ。息継ぎするのも忘れるくらい、キスに夢中になっていた。
「柊翔~、そろそろ着替えたら~」
リビングのほうから、おばさんの声が聞こえた。
二人ともビクリとするけれど、唇は塞がれたまま。ゆっくりと離せば、俺たちが口づけていた証のように、唾液が蜘蛛の糸のように繋がっている。
ぼうっとしたままの表情で、俺の頬に手をやる柊翔。
「……このまま、花火行きたくないな……」
「……浴衣、写真撮るっておばさんが……」
「そうだった……」
残念そうにもう一度優しくキスをして、柊翔は俺の乱れた浴衣を、なおしてくれた。
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