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5.夏の終わり(6)

「あ……れ?」  子どものころの印象と違うのは、大きさだけではなかった。 「すげぇ……木が……なくなっちゃってる?」  木々に囲まれていたはずの校庭が、河川敷のほうだけ、ぽっかりと広く開かれていた。かなり高めのブロックの上に、さらに高いフェンスがはられているから、小学生くらいではなかなか登り切らないようになっていた。下を覗くと、斜面はコンクリートで補強されていて、住宅地になっていた。 「うわ~。いつの間に」 「俺も、この前久しぶりにここに来たんだよ」  一瞬、誰と来たの?と思ってチラッと見たら、 「心配すんなって。小学時代の友達だから……男のな」  ニッと笑って、俺の頭を撫でる。 「こっちのほうがいいかな」  そう言って、歩き出した柊翔の後を、ついていく。  小学生の頃の視点と違うだけで、初めて来たような錯覚を覚えてしまう。体育館の裏ての階段のところに座り込んだ。俺たちの他にも、何人かいたけれど、薄暗い中であまり顔が見えない。 「な。意外に穴場だろ?」  得意気に言う柊翔が、なんだか可愛く見えた。  手を握りながら、夜空を見上げた。ヒソヒソ声が聞こえてくるけれど、柊翔の手の熱のせいで、二人きりのような錯覚に陥る。 「田舎のわりに、夜空に星って見えないもんだな」 「やっぱり、住宅街の灯りがあるから」  ドン!  目の前に、大きな花火が上がった。 「すっげ……」 「……」 『おぉ』  人々の声が聞こえてくる。間をあけて、続けて花開く大きな花火たち。子どものころに見た花火と、何か違うと感じるのは、柊翔と一緒に見ているからだろうか。 「夏休みも、もう終わりだなぁ」  ドンドンと立て続けに上がっていく花火。 「……ですね」  パラパラと、火花が落ちていく。  一瞬の闇が、二人を包む。 「来年も、一緒に見たいな」 「そうですね」  ギュッと手を握り、お互いの存在を確認する。  隣の柊翔の顔を見ようと顔を向けると、微笑んでる柊翔と目が合う。ゆっくりと重なる唇。 「来年も来ような」 「……はい」  ドン!  俺たちの夏休みの終わりを告げるように、目の前に大きな花火が上がった。

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