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第三章・5
クロワッサンに、野菜ジュース。スクランブルエッグに、甘いカフェオレ。
カリカリに焼いたベーコンに、チーズのサラダ。キノコのグラタンに、瑞々しい白桃。
全てを残さず平らげてしまった露希に、誠はようやく声を掛けた。
「君、名前は?」
は、とそこで初めて露希は、この優しい男の名前も知らないことに気が付いた。
「僕は、露希。藤川 露希。……お兄さんは?」
「私は、神崎 誠。君の、養育係になった」
養育係、と露希は繰り返した。
そういえば、昨夜はヤクザの男たちと縁を持ったのだ。
「僕、ヤクザになるの?」
「ヤクザには、ならないよ。ヤクザの情夫になるんだ」
美味しいブランチと優しい誠の笑顔にすっかり緩んでいた露希の心に、緊張が走った。
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