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第五章・8

「38℃。遊園地は、延期だな」 「やだ。這ってでも行くぅ!」  ダメだ、と露希は誠にベッドへ押し付けられた。  朝、何と言うことだろう。  露希は熱を出してしまったのだ。 「こ、これは! あんまり楽しみにしてたから、体が火照ってるだけ!」 「いや、私もうっかりしてた」  初対面の時の露希を、誠は思い出していた。  ぱさぱさの髪、青白い顔色、痩せた体つき。  Ωであるのに、フェロモンの雰囲気を微塵も感じさせない、枯れた感覚。  ずいぶん長い間、無理をして生きてきたに違いないのだ。  病気にもなれないほど、気を張って生きてきたに違いないのだ。 「いいから。安心してゆっくり養生しなさい」 「うぅ……」 「遊園地は、逃げて行かないから」 「くぅ……」 「美味しいオムレツ、作ってあげるから」 「……うん」

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