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第五章・9
ようやく露希を寝かしつけると、誠はキッチンで卵を割った。
「病気になったということは、私を頼ってくれたということかな?」
だったら、良い傾向だ。
露希の心は、私に懐いてきているんだ。
「では、その胃袋も掴んで離さないようにしなきゃな」
ふわふわで、とろとろのオムレツを作って、その心も胃袋も、私から離れないようにしよう。
そこまで考え、誠は気づいた。
(露希はいずれ、私の元を離れる。組長のものになるんだ)
そんな運命の子に、これ以上感情移入していいんだろうか。
『あぁ、あ! 誠さん! 誠、さぁんんッ!』
バスルームで、自分の名を必死で呼びすがる露希の姿を思い出した。
我知らず、耳が熱くなる。
「バカな。相手は子どもだぞ?」
それ以上何も考えないよう、誠は料理に没頭した。
鼻をくすぐる甘いオムレツの香りは、露希の匂いに似ている気がした。
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