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第七章・2

 きゅっ、と誠の手が握られた。  露希を見ると、照れたような笑顔がある。  ふと見渡すと、周囲には手を繋いだ恋人たちが結構いるのだ。 「恋人ごっこに、付き合ってくれない?」 「いいよ」  誠も、露希の手を握り返した。  指を絡め、離れないよう体をぴったりと寄せ合った。 (恋人ごっこ、か)  露希も、気づいているのだろう。  私がこんなに優しいのは、外山さんや組長への義理の表れでしかないことを。  嘘でもいいから。  まやかしでもいいから。  せめて、今だけは恋人。  そう、たとえそれが児戯だとしてもだ。 「誠さん、僕のこと好き?」 「好きだよ」  露希は頬を染めて下を向いたが、それはどこか悲し気な色を醸していた。

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