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第八章・9

 ソファに転がっても、誠はなかなか寝付けなかった。 「露希の本領が覚醒した、といったところか」  Ω男性を抱いたことは何度もあるが、あそこまで抗いがたいフェロモンは初めてだ。 「外山さんも、組長も、お喜びになるだろうな……」  そして、その露希をここまでに養育した誠は、高く評価されるに違いない。  若頭補佐筆頭に昇進、もあり得る話だ。  だがしかし。 「嬉しくは、ないな」  露希を取り上げられたら、自分はどうなるか。  抜け殻になって、しばらく立ち直れないかもしれない。  そこまで考え、誠は気が付いた。 「私は、露希を手放したくないと考えているのか?」  それほど深く想っているのに、なぜ今夜抱いてあげなかった。 「……外山さんと組長への、義理のためだ」  なぜ自分は、そんなヤクザの世界に足を踏み入れてしまったのか。  誠もまた、クッションを噛んで耐えた。

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