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第九章・3

 そのうち露希は、砂岩でできた石垣を下り、砂浜へ駆けだした。  サンダルを脱ぎ、素足で波打ち際まで飛んでいった。 「おい、裸足は危ないぞ! 貝殻で切ったらどうする!」 「誠さんも、おいでよ! 気持ちいいよ!」  まったく、と誠は笑顔で革靴を脱ぎ、靴下を脱ぎ、スーツの裾を曲げた。  ざぶざぶと海へ入ると、露希が水を手のひらにすくっている。  まさか、と思う間もなく、誠は海水を浴びていた。 「うぁ!」 「あはは! 誠さん、水も滴るイイ男、だよ~!」  やったな、と誠も露希に水を掛ける。  キラキラと太陽に輝く波間で、子どものように二人はしゃいだ。 「あぁ、いい気持ち!」 「ずぶ濡れだぞ、露希」 「誠さんも、だよ?」  ふふふ、と笑う露希に、誠も笑顔になった。  こんなに笑ったのは久しぶりだな。  いや、初めてかもしれない。  そんなことを思いながら、露希に優しい笑顔を贈った。

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