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第九章・4
濡れた衣服を海岸林のハマビワの枝に干し、二人は夕暮れの波間にひたっていた。
生まれたままの姿で、少しずつ冷えて満ちて来る海につかっていた。
胡坐をかいた誠にすっぽりと収まり、露希は夕焼けを眺める。
温かな誠の胸の中で、幸せを噛みしめている。
そんな露希の髪を撫で、肩を撫で、誠は彼を慈しんでいた。
「このまま僕たち、お魚になって海で暮らしたいな」
「悲しいことを言わないでくれ」
ごめんなさい、と露希は素直に謝った。
僕は、組長さんのところにいくんだよね、とは言わなかったが。
代わりに、少しはしゃいだ口調で誠に話しかけた。
「ね、誠さん。誠さんの過去、教えて」
「私の過去?」
そう、と露希は自分を抱く誠の腕をそっと掴んだ。
「僕の過去は、話したよね。今度は、誠さんの番だよ」
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