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第九章・6
「結局私は、誰にも必要とされていないと解ったんだ。そんな時、外山さんに出会った」
外山は、一流企業に勤めるお坊ちゃんが、心に深い傷を負い、暗い闇を抱えていることをすぐに察知した。
甘い言葉で誘い掛けられた誠は、彼の言いなりに会社を辞め、中嶋組の組長と親子の盃を交わした。
「私に、新しい親父さんができたんだ。組長のために、外山さんのために、今は働いている」
「そうだったのかぁ……」
露希は、誠にぎゅっとしがみついた。
「誠さんは、必要のない人間なんかじゃないよ。僕には、絶対いなきゃならない人だよ?」
「ありがとう」
抱きつく露希の体は、少し冷たかった。
「そろそろ海から出ようか。体が冷えてきてるぞ」
「うん」
やっぱり、この海で自由に泳ぐ魚になりたい、と露希は思った。
誠と二人で、何のしがらみも無く泳ぎ回りたい。
だがそれは、口には出さなかった。
無言で誠に抱かれて、海から上がった。
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