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「一緒に浴びよう?」 「狭いから、いやだ」 「そうでもなかったけど」  前回のことを思い出したのかにやりと笑う。 「…なんにもしない?」 「なんにもって何?」  部屋着を手にもって、祐樹は壁際に追いつめられている。  居酒屋で楽しく飲んでほどよく酔って、二人で祐樹の部屋に帰ってきた。そしてシャワーを浴びようとしたところで、孝弘が後を追って来たのだ。 「なにって…」 「ん?」  言いよどむ祐樹に、孝弘が嘘くさい笑顔で首をかしげてみせる。祐樹がじっと見上げると、唇にちゅっとキスが降りてきた。 「じゃあ、きょうは我慢するから、あしたは一緒にお風呂に入ろう」  譲歩しているように見せかけて、シャワーどころかちゃっかりお風呂の約束を取り付けている。  触り魔でキス魔で交渉上手な孝弘に、祐樹は流されっぱなしだ。 「なに、きょうは我慢て。それにバスタブ狭いよ。男ふたりは無理だと思う」 「そうでもないよ?」  悪だくみをしている顔で、孝弘はにやりとする。  とりあえず、シャワーはひとりで入れそうなので、祐樹は深くはつっこまないことにした。いまの孝弘に勝てる気がしなかった。  前回、一緒に浴びたときは、ふたりで泡だらけになってさんざん触られてじらされて、最後には孝弘の言うままにねだらされた。  その時は理性が飛んでいるからいいのだけれど、正気にもどると恥ずかしさに熱が出そうだった。  ふたりきりのときは合意だったら基本的になんでもありだと思っているから、何をされても腹は立たないが、恥ずかしくないとは言えないので思い出すと冷静ではいられない。  年下の男に振り回されて、翻弄されまくっている。  しかもそれが嫌じゃないから始末におえない。  思っていたよりずっと、孝弘に落ちている。  ここ最近、祐樹はそれを実感していた。 ※『僕と幽霊の話』という短編を連載しています。  1週間程度で終わりますので、ぜひ遊びに来てくださいm(__)m  https://fujossy.jp/books/18804

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