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横浜に到着すると桜木町まで乗り換えて、孝弘はそのまま歩いて5分ほどの超高層ビルのショッピングセンターに祐樹を誘った。クルージングの時間まではまだかなり余裕がある。
「ちょっと買い物つきあって」
「いいよ、なに買うの?」
孝弘が入ったのはカジュアルな服をあつかうショップだった。
北京ではいまだに、なかなかこういう日常使いで満足できる商品が手に入らないのだ。日本に来ると服を買って帰ると言う。
香港に近いせいもあるのか、そういう意味では広州のほうが流行に敏感で物が豊富だったなと祐樹は思いながら店内を見てまわる。
孝弘がシャツを2枚広げて祐樹を呼んだ。
「どっちがいい?」
「んー、こっちのグリーンが似合うかな」
シャツを見比べてあててみながら、祐樹は内心ちょっとドキドキしていた。孝弘が楽しそうに微笑むからだ。
彼氏に服を選んであげるってやつなのか、これって。
孝弘と買い物に行ったことは5年前の北京でもあるが、あの時の買い物は値段交渉をしたり、穴が開いたりボタンが取れていないかなどチェックすることが多すぎて、こんなふうにデートっぽい空気になったことがなかった。
「祐樹は? 祐樹が着るならどれがいい?」
「おれ? うーん、こっちのブルーか水色かな。あー、でもこんな色ばっか選んでるかも」
「わかる、つい選ぶ色ってあるよな。祐樹に水色似合うけど、たまには冒険してみる? あの明るいオレンジとか似合いそう」
茶色とオレンジの配色のシャツは、夏っぽさもあり茶色のアクセントが効いていて派手すぎず、あててみると祐樹の整った顔立ちによく似合っていた。
「結構いいじゃん」
「なんか、恥ずかしい」
自分でも案外わるくないと思ったが、慣れない色に照れてしまって棚に戻した。
「似合ってたのに」
「ありがと。孝弘の買い物に来たんでしょ。気に入ったの、あった?」
「パンツの試着もしていい?」
「いいよ。シャツよりパンツのほうが中国では見つけにくくない?」
「俺もそう思う」
何着か試着して孝弘は半袖シャツ2枚とパンツ1本を選んだ。ついでに靴下と下着もかごに入れている。買い物はまとめてすませるタイプらしい。
「いまだに10元のTシャツとかもふつうに着てるけどな」
「ひと夏使い捨て?」
「うん。前よりはデザインも質もましにはなってきてるよ。でも部屋で着てるぶんにはいいけど、仕事で人に会うときはやっぱちょっとってことになるから、帰国したときこまめに買ってる」
孝弘がレジをしているあいだに祐樹はトイレに行った。
鏡に映る自分は楽しそうだった。
ゆるくリラックスした顔にちょっと照れる。こんな顔を孝弘に見せているのか。
たしかに仕事モードの時とは違っている。
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