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ゆうべの孝弘の言葉を思い出し、ついでにそのさきを思い出してしまい、思わず赤面する。きのうの孝弘は激しくはなかったが、祐樹を甘やかすように蕩けさせるように体中に触れてきた。
これまでの孝弘はけっこう強気に求めて来たから、あんなふうに包み込まれるようなセックスをしたのは初めてだった。
お互いの存在を確かめるように触れあって、最後まで優しく抱かれて、そのまま孝弘の体温にくるまれて祐樹は気持ちよく眠ってしまったのだ。
大事にされていると思う。
言葉でも態度でも孝弘は祐樹を好きだと明快に表してくれて、祐樹は安心して孝弘の腕のなかに包まれていられる。
同じように、自分は返せているだろうか。
努力はしているつもりだが、まだまだのような気がする。
照れていないでちゃんと言わないとな。孝弘を不安にさせたりしないように。もう二度と傷つけたりしないように。
誠実に気持ちを向けてくれる孝弘に、言葉を惜しまず、きちんと向き合おう。
鏡のなかの自分に言い聞かせてショップへ戻った。
買い物を終えると、孝弘はコインロッカーを探してかさばる紙袋を預けてしまった。
それから、カフェに入って休憩する。アイスコーヒーを飲みながら、ガラス張りの店内から外を行きかう人を眺めた。
「外、暑そうだね」
「こっちの湿度ってつらいよな」
日差しは土曜日の午後を明るく照らしている。
「こんな天気だと、ビールが飲みたくなるな」
「孝弘、ビール好きだよね」
そう話したところで、祐樹の胸ポケットで携帯が震えた。
ちょっとごめん、と断って名前を確かめて、表情を変えないよう意識しながらどうしたものかと迷う。
「出ないの?」
「ん、出るよ。…外で話してくる」
さっと立ち上がり、店を出た。
店内で、いや孝弘のまえで話せる相手ではなかった。
全部切って、と言われたのを忘れていたわけではなかった。
ただお互い忙しい身で、帰国しても連絡をしないことも多かったのでそのままにしていたのだが、これはやはり祐樹の落ち度だろう。
祐樹から連絡をしなくても、相手から連絡が来る可能性はあったのだから。
よりによって孝弘と一緒のこんなときに連絡が来るなんて、と思わないでもないが、相手にそんな事情がわかるはずもない。
帰国予定を過ぎた週末だから電話してきただけのことだ。
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