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「そんなこと言わないよ。束縛もされてない。おれよりずっと心が広くてしっかりしてる人だから。でも、おれがけじめとしてお前とふたりで会うのはやめとこうって思っただけ。彼にいやな思いをさせたくないんだ。だから食事は行くけど、ほかに誰か誘おうよ」 「わかったわかった。なんだか、ずいぶんのろけられちゃったなー」  友人はあっさりそう言って笑った 「じゃあ、祐樹が日本を発つまえに何人かで飲もうぜ。駐在ってことはまた何年か帰ってこないんだろ?」 「たぶんね。いまのとこ、プロジェクトは2年の予定」 「ってことはなに、彼氏は中国の人なの? 向こうにいるのか?」 「ちがうけど。まあとにかく、そういうことだから」 「あ、オッケー、ごめん。邪魔してわるかった。そばにいるんだな?」  友人は察しよく言って、じゃあまた連絡するとあっさり相手から電話は切れた。  どうにか通話を終えて、ほっとして振り向くと腕組みをした孝弘が柱にもたれて立っていた。  ぎくっと体が固まった。聞かれた、よな。  こういうときはなんて言うべきなんだ?  孝弘は不機嫌にも見える表情で、鋭い目つきで真っ直ぐ祐樹を見つめている。  その目線を正面から受け止めて、おかしな会話ではなかったはずだと、祐樹はぎこちなく口を開く。 「え、と。今のは、大学の同期で、ときどきご飯食べにいく友人で、それで、あの、たまにちょっと、何て言うか」 「もうふたりだけでは会わないんだろ?」  説明しようとした祐樹の言葉をさえぎって、孝弘が訊ねた。 相手がセックス込みの友人だと理解している。けれども目線の鋭さのわりには穏やかな声だった。  それにちょっとほっとしながら、うんとうなずく。 「俺にいやな思いをさせたくないから?」 「うん」 「じゃあ、心が広くてしっかり者の彼氏としてはこれ以上聞く必要はないよ」  苦笑に近い笑みを見せて、孝弘が「立ち聞きしてごめん」と謝った。 「画面見たときのようすがおかしかったから、気になって出てきたら聞こえちゃって」 「いいよ、そんなの。全部切ってって言われてたのに、何もしないでいたのはおれだし…。こっちこそ、ごめん」 「そんな顔しなくても、信じてるから大丈夫」  不安そうな顔でもしたのだろうか。  孝弘の手が祐樹の頬をやさしくなでた。 「ほんと、孝弘はかっこいいね。大好きだよ」  思ったままを素直に告げると、孝弘が押し殺したため息をつく。  いますぐキスしたい、ちいさなつぶやきが聞こえた。 それを聞いたらどうしても我慢ができなくなって、祐樹は柱の陰にいる孝弘に素早く口づけた。  目を見開いた孝弘に好きだよとささやいて、さっと身を離した。

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