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第3章 横浜クルージング
時計を見るといい時間になっていたので、そのままビルを出て馬車道へと歩いていく。観光地なのでわりと人通りがあるなかを、レトロな建物を横目に見ながら大さん橋埠頭に向かう。
会話はあまりなかったが気まずくはなく、祐樹はすっきりした気分だった。
埠頭に近付くにつれ、乗り場に向かって歩く人たちでけっこうな賑わいになってきた。停泊している大小いくつかのクルーズ船が見えてくる。
「けっこう大きい船なんだね」
「ここには国際客船も着くから、もっと大きい船が入ってる時もあるみたいだけどな」
出入国ロビーのチケットカウンターで手続きをすませ、デッキを渡って船に乗るとスタッフが待っていた。
白い制服を身に着けたスタッフはきびきびしていて、船の中の注意事項を述べながら、レストラン仕様の船室まで案内してくれた。
テーブルの中央に一輪挿しとディナー用の食器がセッティングされていた。前方のステージでは生演奏のバンドがいて、出航前のひとときを楽しめるようになっている。
さりげなく周囲を見てみると、年配のカップルや中高年の子連れファミリー、デートらしい若い男女などが席についている。ディナー付クルーズということだったので、カジュアルなジャケットを着てきたが、ほかの客もそれなりにきちんとした服装だ。
テーブルの配置に距離がとってあるので会話は聞こえないが、思ったよりも本格的なデート仕様に祐樹はこそっと孝弘にささやいた。
「男ふたりって浮くんじゃない?」
「気になる? だったら中国からの観光客設定にしようか?」
孝弘が通訳役になる、ということらしい。
「そのほうが気楽に楽しめるなら、それでもいいよ。いやそのほうが会話の内容がきかれなくていいのか?」
祐樹をリラックスさせるためか、おどけたような孝弘の申し出にちょっと考えてみたが、祐樹は首を横にふった。
べつにだれにどう思われてもかまわない。
そんな芝居をするより孝弘と楽しく過ごしたかった。90度の席に座った孝弘の手を、テーブルクロスのしたでそっと握る。
「ううん。ふつうにデートしよう」
祐樹が落ち着いた声でこたえると、孝弘がやさしく笑って手を握り返してきた。
※『僕と幽霊の話』完結しました!
1万字もない短編なので、ぜひ遊びに来てくださいm(__)m
https://fujossy.jp/books/18804
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