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カクテルは北京語で鶏尾酒(ジーウェイジュウ)というが、漢字表記になると馬丁尼(マティーニ)やら威士忌索爾(ウィスキーサワー)やら金菲司(ジンフィズ)という感じでクイズのようだ。孝弘に読み方を教えてもらって発音練習をする。
北京語の音にもかなり慣れてきたから、うまく言えたら孝弘がにっこり笑って褒めてくれるのがうれしい。
店に入った時は4人がけのテーブル席に、ぞぞむと孝弘、向かいに祐樹が座っていたが、ぞぞむは顔が広いのかあちこちのテーブルから声をかけられていて席に戻ってくる暇はなさそうだ。
孝弘と向かい合って、夕食にと頼んだパスタや生ハムサラダやシーフードグラタンをシェアした。
「あ、おいしい」
たしかに中国を感じさせない味だった。
「ここは日本人オーナーの店なんだ。シェフも日本人」
「だからか。なんか懐かしい味がするね。こういう店は初めて来たよ」
「うん、日本人に合う洋食が食べれるだろ。カクテルの味はわからないけど、けっこういろいろあるから高橋さんには合うのかなと思って誘ったんだ」
「上野くん、こういうお店とか、けっこう飲みに行ったりするんだ。ちょっと意外?」
「というか、ぞぞむが好きなんだよね、こういうの。俺も飲みに行くの嫌いじゃないから誘われたら行くんだけど、ぞぞむの場合は遊びというか…半分は人脈作りだな」
「人脈作り?」
「そう、そういうとこで遊んでるリッチな中国人とか会社員と知り合うための場っていうか。あいつ、けっこう派手に遊んでるけど、将来中国で起業したいみたいで、いろいろ顔が広いんだ」
「へえ、すごいね。そういうこと考えてるんだ。彼、いくつだっけ?」
向こうのテーブルで何か話して盛り上がっているぞぞむに目を向ける。高橋にとっては人好きのする笑顔でおおらかな性格、という印象だ。
「こないだ22歳になったとこ。中国式の誕生祝い、わざわざ開いたんだ。けっこう盛大だったよ」
「中国式の誕生祝いってなに?」
「日本と違って、誕生日の人が周りの人を招待して食事をおごるんだ」
「そうなの? 知らなかった」
いろいろな習慣の違いがあるものだ。
何人もの食事代を払うとなるといくら中国の物価が安いとは言ってもけっこうな金額だろうに、それを負担してもいいと思う人脈を作っているようだ。
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