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留学生にもいろいろあるが、孝弘やぞぞむは将来をしっかり見据えていて、かなりやる気があるタイプだ。孝弘は努力家でしっかり者だし、ぞぞむはおそらく行動力があって社交的なのだろう。
タイプは違っても人を惹きつけるふたりだ。きっと気が合うだろうと祐樹にもわかる。
孝弘と同室で一緒に勉強したり遊んだりして、もしかしたら将来なにか仕事をしたりするかもしれない。中国と積極的に関わっていこうとする学生ふたりの、まだ見ぬ未来を想像する。
ちくりと胸が痛んで、祐樹ははっとした。
いま、ぞぞむに嫉妬した。
それを自覚して、バカバカしいと苦く思う。
半年間と期限が決まっている研修だ。
楽しく遊んでこっそりデート気分を味わおうと思っているだけの相手に、本気になってはいけない。7月も半ばを過ぎて、研修期間は残り3ヵ月ほどだ。
「まだ足りないでしょ、何か追加しようか。高橋さん、オムライスとライスボールだったらどっちがいい? ピザもあるけど」
何も知らない孝弘がフードメニューを開いて祐樹を覗きこむ。考えるふりで祐樹はあいまいに微笑んだ。
動揺を悟られないよう、目線を伏せてあえてゆっくりグラスを傾ける。
「オムライスがいいかな。ほかは任せるから、上野くんが適当に頼んで」
目があった瞬間、孝弘の手がすっと伸びてきて祐樹の髪をさらりと撫でた。一瞬どきっとしたが、孝弘があわてた顔をしてごめん、と言ったのでなんとか平静をよそおって、いいよと笑う。
「なんか高橋さんの髪、撫でたくなるっていうか。ごめん、へんなことして。中国の水って髪がぱさぱさになるのに、高橋さんの髪ってきれいだよな」
孝弘がみょうにしどろもどろになるのがおかしい。
慣れないカクテルで酔っているのかもしれない。すうっと頬が赤くなったのがかわいいと思う。
「カクテルで酔った? 上野くん、顔が赤いよ。めずらしいね」
照れてそっぽを向く横顔を目に焼き付けながら、祐樹は押し殺したため息とともにジンを苦く飲み下すーー。
そんな5年前の出来事を思い出していると、すっきりとした立ち姿の黒服のスタッフがドリンクを運んできた。
三里屯から横浜の高層ビルのバーへ、一気に時間を飛び越えたみたいな錯覚を起こして、祐樹はぱちぱちと目を瞬いた。
目の前の孝弘が「どうしたの?」と首をかしげる。
回想の孝弘は19歳の学生でTシャツにジーンズ姿だったが、いま目の前にいるのは24歳の大人の孝弘だ。ゆったりソファにもたれている姿に5年の時間の経過を感じた。
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