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 なんでもないと微笑んでグラスを持ち上げ、こうして一緒に過ごせることに乾杯する。  一口飲んでから、祐樹はそっと暴露した。 「北京にいたころのあれはね、孝弘とデートしたくてわざと言ってたんだよ。ここ行ってみたいなって言ったら、孝弘はちゃんと連れて行ってくれたから。脳内妄想デートばっかりしてたよ」  当時、孝弘はまだ祐樹への気持ちを自覚していなかったし、祐樹のほうは現実につきあう気などまったくなかった。  だから北京に不慣れな祐樹は行きたい場所や食べたいものをリクエストするふりで孝弘をさりげなく誘って、こっそりデート気分を味わっていたのだ。 「そうだったんだ? もったいないことしたな。気付かなくてさ」  打明け話に笑った孝弘は、そっと手を伸ばして祐樹の髪をなでる。窓に面したソファの背もたれで、多少いちゃついてもほかの席からは見えない。 「三里屯、今でも行くの? 前より店も増えたでしょ」 「たまに行くくらい。けっこうにぎわってるエリアだな。友達に誘われたりもあるし、知り合いがライブするから見にきてとかもあるな」  さすがに6年も中国にかかわっていると、友人知人も多いのだろう。孝弘にはかなり広い付き合いがあるようだ。  ソファ席でかるくいちゃいちゃしながら、ぽつぽつ思い出話をした。  いくつも懐かしい場面がよみがえって、あの出会いから今を過ごせることに、祐樹は本気で感謝した。  孝弘が追って来てくれて、本当によかった。5年の時間を越えて再会して、こんなふうに恋人になれるなんて、あの頃、かけらも思ったことはなかった。  カクテルをそれぞれおかわりして、ほどよく酔いが回ったところで孝弘がささやいた。 「祐樹ともっといちゃいちゃしたいな。下に部屋、取ってあるんだ。泊まっていこ?」  きゅっと手を握られて、下というのはこのビルのなかにあるホテルの話だと、祐樹にもわかった。52階から67階がホテルになっているのだ。 「一緒に風呂に入る約束したよな」  孝弘がにやりと楽しげな、いたずらっぽい笑みを見せる。  つまり、狭くないというのはここの風呂の話か、ときのうの孝弘の発言を思いだす。なるほど、すべて手配済だったというわけだ。 「ほんと、手際のいいことで」  苦笑しながらグラスに口をつける。嫌だなんていうわけがない。 「敏腕コーディネーターですから」  な?と孝弘は首をかしげて見せる。

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