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「肩、ちょっと冷えたな」
汗をかいているのに、換気扇が回っているせいで肩は冷たくなっている。
孝弘はシャワーのお湯を出して、まだ床に座り込んだままの祐樹の肩から背中に当たるように加減すると、シャワーブースを出て隣接する浴室に行った。浴槽にお湯をためているようだ。
全面ガラス張りなので遮るものもなく、ぬるい湯を浴びながら孝弘の引き締まった体が動くのをじっくり見ていると、視線に気づいた孝弘が振り向いてあまく微笑んだ。
「なに? 俺の裸に見とれちゃった?」
「うん、かっこいいね」
素直に頷くと、なぜか孝弘がすねたような顔でため息をついた。
「ほんと、これだもんなー」
バスオイルを入れたバスタブのなかで、ふたりで向かい合わせに湯につかっている。
オレンジのさわやかな香りがバスルームに満ちていて、ぬるめの湯につかるとゆったりした気分になる。
「……立ったままって興奮するけど、やっぱベッドでするほうが好きかも。祐樹はよかった?」
孝弘がばしゃっと顔を洗う。
濡れた髪をかきあげると、ふだんと雰囲気が変わって祐樹は見惚れてしまう。
「んー。ベッドのほうが体は楽だけど、こういうのも嫌いじゃないよ」
「そっか。いっぺんしてみたかったんだけど、ちょっと落ち着かなかったな」
なんとなく顔を見ながら続ける話でもないような気がして、祐樹は体の向きを変えると孝弘の胸にもたれかかった。肩に頭を預けると、当然のように孝弘の腕が腰に巻き付いてくる。
いまの言い方だと立ってするのが孝弘は初めてのようだった。自分の経験をわざわざいうこともないだろうと祐樹は口をつぐむ。
そっと肩越しに振り返ると祐樹の考えなどお見通しの顔で、孝弘が目を細めていた。
お互い口に出さないのは、過去を突きだしても仕方ないと知っているからだ。
それなりの年齢の大人で、過去のつき合いをあれこれ言うほど野暮でもない。
昼間の電話の件でもそれはわかっている。孝弘は嫉妬するとは言ったけれど、責める言葉は口にしなかった。
でも祐樹だって同じだ。
孝弘の過去の恋人は女性だけだと知っている。どんな相手か知らないが、やはり嫉妬はする。
年上の意地で口に出さないだけだ。
いたずらな手がわき腹から上がってきて、そっと胸の突起を押した。湯の中でやわらかく刺激されて、じわじわと快感が広がってくる。
体をひねって甘えるように孝弘の耳に口づけた。
「ベッドでもう一回、したいな。ゆうべみたいなの、おれも好きだよ」
祐樹からのお誘いに、孝弘の目が捕食者のそれに変わった。
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