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 広めのツインの部屋だったが、ベッドが一つだけしか乱れていないのを見て、なんだか急に恥ずかしさがこみ上げた。ゆうべの痴態を思い起こすと耳まで熱くなってくる。 「こっちのベッドで、ちょっと休憩しよ」  祐樹の顔が赤いのに気づいただろうに、孝弘はあっさり言って、ぱぱっと服を脱ぐと下着だけになって整ったままの上掛けをめくってベッドに入った。 「ほら、来なよ」  欲望を感じさせない無邪気な顔で誘うから、ここで照れるほうが逆に恥ずかしいような気になって服を脱いだ。  シーツのあいだに体をすべりこませると、すぐに孝弘の腕が絡みついて引き寄せられた。すりすりと頬を寄せてきて、素肌に密着されて、気持ちよさにため息をつく。  抱きしめられて、触れるだけの口づけが何度も繰り返される。欲情を煽るものではない、ただ愛情を伝えるためのキス。  好きな人と触れ合うのって、こんなにうれしくて気持ちいいものか。心臓がとくとく鳴って、気持ちがあふれそうになる。 「そういえば、誕生日っていつ?」 「1月27日。急にどうした?」 「そんなことも知らないって思って」 「俺は知ってるよ。10月19日」 「教えてないよね、なんで?」 「パスポート預かっていろいろ手配してたからな」 「ああ、そうか。こっちの個人情報は握られてるんだ」 「そうそう。背中から脇腹にかけてが弱いこと、とかな」  くすぐるように手を這わされて、ぴくんと体が反応する。でもそれ以上する気はないようで、ぎゅっと抱きしめられる。 「それから俺、来週水曜から3日間、出張で日本にいないから」 「そうなんだ、どこ?」 「香港。昨日、ディナーのとき話そうと思ってたら、マジック始まって言いそびれたんだ」 「香港? 孝弘の仕事にしてはめずらしい?」 「うん、あんまりないかな。でも留学時代の:同室(トンウー)からの紹介だから断れなくて。7月からはもう専属契約になるから個人の仕事はできないって言ったら、この日程でってことになったんだ」 「3日間、てことは金曜の夜帰り?」 「そう。週末はデートしてくれる?」 「もちろん、いいに決まってる」  …香港か。  昨日、エビチリを食べながら思い出した男の顔が、またふっと記憶をかすめた。 「じゃあ、それを励みにお仕事がんばるよー」  ふざけて抱きつく孝弘に祐樹からキスをする。  何度もちいさくキスを交わすうちに、記憶をかすめた男の顔は消えていた。  お腹も気持ちも満たされて、やさしく触れられているうちに眠ってしまったらしい。起きて、とささやかれて目を覚ますと、外はすっかり真昼の明るさになっていた。 「ごめん、寝ちゃってた?」 「いいよ、俺もすこし寝た。祐樹の体、気持ちいいな」  間もなくチェックアウトの時刻になる。  離れたくないな、とつぶやいた孝弘におれもだよ、と祐樹はささやき返した。

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