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「うん。突然すぎて、なにしたらいいんだか」  祐樹が肩をすくめて見せると、江藤は目をきらきらさせて反論した。 「えー、10日も休みあったら、いろいろできるじゃないですか!」 「例えば?」 「それこそヨーロッパでもハワイでもアフリカでも行けますよ。あ、いまの時期なら北極圏は白夜だし、南アのクルーガー国立公園でサファリ見るとか、エーゲ海クルーズなんかも素敵ですよ。んー、海外に興味ないんだったら、沖縄でダイビングでもレンタカーで北海道一周でもお寺で断食道場でも四国でお遍路さんでも」 「…江藤さん、意外とアクティブなんだね」  次々出てくるプランに、祐樹は目を丸くする。  世の中の人は本当にみんなそんな休暇を過ごしているんだろうか。  しかもひとりで? 「そうですかあ? ふつうですよ。高橋さんって、趣味とかないんですか?」 「えー、なんだろう。考えたことないな」  改めてきかれると、趣味とこたえられるほどのものはないような気がした。 「お休みの日って何してます?」 「特別なにも。本読んだり映画見たり中国語のVCD見たり。展示会行ってレポート書いたり、たまに打ちっ放しとかかな」 「半分以上お勉強ですね、それ。彼女とデートとか、しないんですか?」  そこで、探りを入れられていることに気づく。と同時につい孝弘の顔を思い浮かべてしまい、顔には出さないように気をつけたが、動揺を見透かされてしまったらしい。 「あ、やっぱいるんだ」  江藤の納得声でのつぶやきに、しまったと思う。  女子の観察眼、すごいな。  あー、めんどくさ。 「自立してる人だから、べったり一緒にいるわけじゃないんだ」  仕方なく、にっこりしてみせた。いないと否定するのも面倒だ。というより、否定したあと、あれこれ売り込まれるのが面倒だった。 「遠距離ですか?」  休暇をもらっても会う予定を立てようとしない祐樹を疑問に思ったのか、そんなことを突っ込んでくる。  祐樹は隙のない、控えめな笑顔を作って答えた。  「ノーコメント」 「高橋さん、外線2番、赤坂インダストリアルカンパニー、堂本さんからです」 「ありがとう」  降ってきた救いの声にほっとして、電話に手を伸ばす。  視界のすみで江藤の残念そうな顔がちらりと見えた。 「はい、お待たせしました。高橋です」

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