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「木曜から10連休? えー、いいじゃん。あ、じゃあ香港来る?」
休みのことを教えたとたん、目を輝かせて孝弘はそういった。
そうだった、孝弘もアクティブなひとりだったっけ。
今日は仕事帰りに孝弘のウィークリーマンションに寄っている。
昨日の朝市で買った食材で、孝弘が夕食を作ってくれたのだ。ゆうべ仕込んだというアジの南蛮漬けはしっかりと甘酢がしみて絶品だった。
「おれって無趣味のつまらない人間のような気がしてきた」
江藤との会話を思い出しながら祐樹がぼやく。
「なに、どういうこと?」
江藤の休暇プランと自分の会話を話して聞かせると、孝弘はおもしろそうに笑って祐樹を抱き寄せた。ややこしいので彼女うんぬんの部分は割愛しておく。
「それで無趣味だと思ったんだ」
「うーん。とくに打ち込んでることってないよね。ゴルフも麻雀もはまってるっていうほどじゃないし、旅行とかべつに行きたいと思わないし、釣りもゲームもカラオケも飲み会も誘われたら行くってくらいで極めた趣味ってないし」
基本的に受身な性格なのだ。
そういえば末っ子気質って言われてたっけ。構われるのに慣れていて、じぶんから誘うことはあまりないかもしれない。
そもそも学生時代から目を引く容姿だったから、コンパや遊びにはだいたい声を掛けられた。お前が参加すると女子のレベルが上がるんだよと、あからさまにお願いに来る同級生もいた。
べつにそれが嫌だと思うタイプではなかったので、誘われたら断らずにたいていの集まりには顔を出した。
女子には興味なかったが、人付き合いの一環だと割り切って参加するうちに、いつの間にか親しい男友達も女友達もできたし、中には祐樹の性癖を知っても受け入れてくれる友人もできていたのだ。
もっとも就職してからはすこし慎重になって、学生時代ほどオープンな人付き合いはしていない。
海外赴任していたせいもあるが、見た目が良くて仕事もできる若い男となれば、嫉妬の対象になるのは学生時代の比ではなくて、無用な波風を立てないように、とくに女性が絡む場には顔を出さなくなっていた。
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