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 あの男の秘書である陳と会ってしまった以上、祐樹が香港入りしていることが彼の耳に入らないはずはない。  会うつもりはないことを陳にははっきり言っておいたから、よけいなことはしてこないと思うが、ひょっとしたらということはあり得るかもしれない。  祐樹の思惑などかるく飛び越えてしまう世界の人間だ。  それでなくても狭い香港に来ている。  どこに泊まるとも訊かれなかったが、彼が本気になれば探しだすことは容易いだろう。  彼とのことはもう2年以上前の話だし、祐樹にとっては終わったことではあったが、他人からよけいなことを聞かされるまえにじぶんで話したほうがいい。  運転手から見えない位置でそっと手を繋いでくる孝弘の手をぎゅっと握り返して、祐樹は腹を決めた。 「で、どうしたの。なにか言いたいことがあるんだろ?」  チェックインしたホテルの部屋に入るなり、孝弘は祐樹を抱きしめた。  陳と話していた様子やタクシーのなかでの祐樹の表情からなにか察するところがあったのだろう。先回りして孝弘が訊いてきた。 「さっきの男に関係あること?」  どことなく嫉妬を滲ませた声に聞こえるのは気のせいだろうか。 「うん、まあね。でも言っておくけど、彼とどうこうあったわけじゃないよ」 「わかった。…フライトで疲れただろ。お茶でも飲んでから、話は聞くよ。でも先にキスしていい?」  それほど感情的になっているわけでもないようで、祐樹がうなずくと腰のうしろに手が回され、すぐにちゅっと唇が触れてきた。  やさしくかるく押しつけられて、うすく唇をひらくと舌先でそっとなめられた。くすぐったくて笑うと、するりと侵入してきて深いキスになる。  孝弘の舌で口のなかの敏感なところをあちこち舐めたり突かれたりして、祐樹はうっとり孝弘の愛撫を味わう。  同じように気持ちよくなって欲しくて、祐樹からも舌を絡めると抱きしめた腕にぐっと力がこもった。  しばらくのあいだ、4日ぶりの恋人の存在をお互いに堪能しあった。 「祐樹の匂いがする」  首筋に鼻先をすり寄せて、孝弘がため息をついた。 「これ、好きだな」  抱きしめるくらい近くに寄るとわずかに香りを感じる程度にフレグランスを使っている。ふわっと香るそれが気に入っているらしい。  しばらくそのままで祐樹の匂いを堪能してから、孝弘は回していた腕を解いた。

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