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そのままリビングのソファに祐樹を座らせて、じぶんはキッチンに向かう。
孝弘が予約していたのは出張などでよく使われるアパートメントホテルで、ベッドルームのほかにリビングとミニキッチンがついているタイプの部屋だった。
ホテルランクとしては高くないが、便利な立地にあり、部屋の間取りが家のようでゆっくり過ごせるからと祐樹がリクエストしたのだ。
ビジネス対応なので、リビングにはパソコン用のデスクやネット環境も整っていて、祐樹や孝弘にとってはシティホテルよりも使いやすかった。
地下鉄の駅からも歩いてすぐで繁華街にも近く、このホテル内にレストランはないが、香港には安くておいしい食堂がいくらでもあるのでまったく困らない。
長期滞在も多いため、キッチンには鍋や湯沸かしポット、食器なども一そろい備え付けてある。電気ポットで湯を沸かす孝弘を眺めながら、あらためて香港に来たんだなあと感慨にふけった。
ここでとりあえず3泊とっている。帰りの飛行機はオープンチケットだった。
気が向いたら延泊してもいいし、べつのエリアに移っても、帰国しても構わないからと孝弘が手配したのだ。
帰りの日程を決めずに旅行する。そんなことをまるで考えたことがなかったので、祐樹はその自由な発想にずいぶん驚かされた。
考えてみたら、祐樹は大学時代のサークルの合宿やゼミ旅行くらいでしか泊りがけで出かけたことがなく、個人で旅行したことなど片手で足りるほどだった。
大学時代に2年半ほどつき合った年上の恋人がいたが、相手は忙しい社会人だったので、その彼と何度か近場に1泊した程度だ。
会社に入ってみたら、海外含めて出張が多いのでホテルに泊まることは慣れたけれども、ビジネス以外で泊まったことはない。
この前、横浜のホテルに突然泊まったのも、祐樹にしてはめずらしい体験でかなりわくわくしたのだ。
帰りの車の中でそう告白すると孝弘はずいぶん驚いていたから、じぶんみたいなのは少数派なのだろう。
10連休と聞いたときの江藤のような反応がおそらく一般的なのだ。
休みがあったら旅行に行こうなんて今まで考えたことがなかったのは、もう長い間、一緒に行きたい人がいなかったからかもしれない。
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