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 いま祐樹がいるのもそんなクラブのひとつだった。  高級ホテルのスイートルームのようなクラブの、その特別フロアに平然と入ってきて、見かけない顔だと祐樹に言うのだから、彼は常連メンバーとみて間違いなかった。 ”私がきみにそう呼んでもらいたいんだ”  本当に呼び捨てにしていいものか、祐樹の戸惑いをかるくあしらう。  しぶしぶ祐樹がうなずくと、彼は満足げに目を細めた。  人にいうことをきかせることに慣れている態度だった。あるいは命令することに。  何者だろう? ”きみは、ひょっとしてチャーリーのゲスト?”  祐樹をここへ連れてきた知人のイングリッシュネームを彼は呼び、祐樹はがうなずくとふうんと首をかしげた。 ”そうです。彼はいま電話があって下のフロアに行っているんですが”  ひとりでいた理由を説明すると、エリックはちょっと品定めする目で祐樹を見つめる。 ”きみはゲイなのか?”  飛んできたストレートすぎる質問に、祐樹は言葉を失った。  今までの会話で感じ取れるものではなかったと思ったが、なにかそれと察することができるような行動を取ったのだろうか。  驚いて固まった祐樹に、エリックは肩をすくめて謝罪した。 ”いや、失礼した。違ったようだな、こちらの勘違いだ” ”いえ、大丈夫です。…でもなぜそんなことを訊くんです?” ”きみがチャーリーの好みのタイプだと思ったのと、彼はよくここへだれかを連れこんで、あらぬことを仕掛けているようだから”  つまり祐樹をそのターゲットだと思ったらしい。 ”…わたしが今夜こちらへ伺ったのは、仕事の関係である人物を紹介してくださるということでしたので”  べつに見知らぬ人間に誤解されても痛くもかゆくもなかったが、一応の説明をした祐樹に、彼はなるほど、とうなずいて見せた。 ”そうだったのか。…では、念のため忠告しておこう。チャーリーはよくその手で好みの人間を連れてきて、くだらないいたずらをしているようだから、気をつけて”  祐樹は黙ってエリックを見上げた。エリックもじっと祐樹を見つめている。  チャーリーがじぶんに気があるそぶりがあったか考えてみたが、よくわからなかった。そもそも紹介者を通じて知り合ったばかりで、正直よく知らない人物だった。  香港の上級階級にコネがあるということでべつの知人から紹介され、今夜ここに招待された。  コネ社会の中国人との取引ではよくある話で、しかも紹介状がなければ入れない上流階級のクラブだということで祐樹もさほど警戒せずに来てしまったが、もっと警戒心を持つべきだったんだろうか。

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