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 車のなかで考えた結論は、つまりからかわれたんだな、だった。  エリックがゲイだかバイだか知らないが、チャーリーに襲われそうになっているのを偶然助けてくれて、その後のことはからかわれたのだろう。  移動はつねに運転手付きのリムジンかプライベートジェットという世界の住人の気まぐれに、じぶんは付き合わされたのだ。  食事のためにヘリで移動とか、得難い経験だったな。  なんにせよ、孝弘によく似た彼との会話と食事が楽しめたのは間違いない。  香港でふしぎな夢を見た気分だった。  リムジンがホテルの車寄せに着き、礼をいって車をおりた。それで終わりだった。  いや、終わりのはずだった。  再会は予想もしない場所でだった。 “やあ、ユーキ。奇遇だね”  奇遇もなにも、祐樹の会社のまえの歩道だった。  退社してビルを出て来たところに声をかけられて、祐樹は呆然と目のまえに立つ彼を見た。貸し切りのレストランで食事をしてから一週間が経っていた。 “…エリックさん”  彼は片眉を上げて祐樹を見て、もう忘れたのかと顔をしかめた。祐樹はなんの話かと首をかしげる。 “エリック、だと言っただろう” “…そうでしたね”  呼び捨てにしなかったことで責められるとは思わなかった。 “ここへはどうして?” “もちろんきみに会いたくて”  にっこりと微笑んで言われた台詞を真に受けるほど、祐樹も世間知らずではない。  エリックが何者なのかいまも知らないが、忙しいビジネスマンに違いない彼が、わざわざ祐樹を探してきたとは思えなかった。 “ありがとうございます、お上手ですね。私が女性なら舞い上がるところです。それで、本当のところは?”  エリックの返事を祐樹は余裕の笑みで躱した。 “すこしもよろめいてくれないな。クールでそこもいいんだが。…本当はビジネスだよ、この先の東アジアトレーディングとミーティングを済ませて来たところ”  それなら納得だ。それにしてもいくら狭い深圳とはいえ、かなりの偶然ではあるが、エリックが種明かしをした。 “先日、スーツに社章を付けていただろう。それで勤務先はわかっていたから、ちょっと訪ねてみようかと来てみたら、偶然にもきみが出てきたというわけだ”  ね、奇遇だろう、とエリックは笑い、一緒に夕食をどうかと誘って来た。 “会食があるのでは?” “もう飽きた。きみに会えなかったらひとりでぶらりと食べて帰ろうか、食べずに香港に戻ろうか迷っていたところ”  嘘か本当かわからなかったが、そこで祐樹は食事をおごるという約束を思い出した。  口から出まかせもいいところだったが、こうして会ってしまった以上、実行しないわけにもいかないだろう。

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