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 気がついたらぼろぼろ涙があふれていた。  考えてみたら、じぶんから好きになった相手に好きだと告白されたのは初めてだった。なのに、その人の手をつかめない。つかんではいけない相手だ。  何も考えられず、真夜中の部屋で涙があふれるまま、祐樹はいつまでも座り込んでいるだけだった。  もうすっかり記憶の奥底に封印できたと思っていたのに、こんなにも鮮やかに思い出すなんて。  きっと目の前に座っている男のせいだ。 “ユーキ、私の向こうに誰を見ている?”  唐突な質問に、祐樹は息を飲んだ。  過去に心を飛ばしていたせいでぼんやりしていた。顔をあげると、エリックが真剣な目で祐樹を射貫くように見つめていた。 “私はそんなに、ユーキの誰かに似ているか?”  なにも答えられず青ざめて黙り込む祐樹に、エリックは声をやわらげた。 “責めているんじゃない。きみがあんまりつらそうな顔で私を見ることがあるから、気になっただけだ。無神経な質問だったかな”  悪かった、と謝罪されて、祐樹は力なく首を横にふった。 “いいんです。私こそすみません。…そんなにあからさまでしたか?” “ときどきね。うれしそうにするかと思えば、悲しそうな表情になるから気になった”  エリックが手を伸ばして、祐樹の頬に触れて来た。  ぴくりと体が逃げかけるが、狭い個室では逃げ場もない。向かいにいたエリックが腰を移動させて、90度の位置に座りなおした。  うつむいた頬を両手で挟まれた。顔を上げさせられて、エリックが触れるだけのキスをするのを、ぼんやりと感じていた。現実感はまるでなく、夢のなかにいるようだ。 “本当は誰を見ているんだ?” “…片思いしていた人です”  嘘をつくのをあきらめて、祐樹は素直に告げた。男性がだめではないと知られることになるが、もういいかと思った。  エリックが孝弘に似ているのが悪いのだ。だからいつものガードが緩んでしまう。見知らぬ相手に落ちたことなんか一度だってないというのに。 “そうか。…やはり、今晩つきあってくれないか?” “…あなたを好きでもないのに?” “これから好きになるかもしれないだろう?”  本当にそんなことが起きるだろうか。エリックを好きになる? 想像もつかない。  ただエリックの声や落ち着いた態度は祐樹を警戒させない。安心しているじぶんを自覚して、祐樹は心を決めた。 “今夜だけなら”  バカなことをしていると思う。  孝弘に似ていても孝弘ではないのだ。それをわかっていても手を伸ばすじぶんを、ひどく冷静な目で見ているじぶんもどこかにいる。  それでも、虚しい気持ちになるかもしれないと思っても、エリックの手を拒むことができなかった。触れた手が、あまりにやさしく温かかったから。

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