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 誰かとベッドに入るのは久しぶりだった。  広州赴任していた頃は、ほかの駐在員とセフレのような友人関係もあったが、深圳に移ってからは面倒になって滅多に誘いに乗らなくなっていた。  体を固くして緊張する祐樹に、エリックはやさしく頬に口づけながらそれをほぐそうとする。 “リラックスして。余計なことは考えないでいいから、一緒に楽しもう” “はい”  じぶんよりはるかに経験豊富な相手に祐樹は翻弄された。 “ユーキ、ここがいい?”  温かな手をしたエリックは予想したよりもっと手慣れていて、祐樹の身体をやすやすと開いて快感を引き出した。  「あ、あっ、いや……そこ、あぅ、あっ…」  追いつめられて泣きながら許しを請うたが、エリックは容赦なく祐樹の奥深くまで入りこんで、祐樹が忘れていた感覚を与え続けた。  途中から、いやだ、離してと口走っていた。  日本語の訴えでも意味はわかっていただろうに、エリックは祐樹をなだめながらゆるゆると導いて、何度も深い快楽の底に引き込んだ。  じぶんの体がこんなふうに快楽を貪ることができるのだと久しぶりに知った。意識を飛ばしたのはいつだったのか。それすら定かでなかった。  気がついたら、ホテルのベッドにひとりで寝ていた。  誰もいなかったことに、逆にほっとした。そばにエリックがいたらいたたまれなくて、顔を見られなかっただろう。  ベッドサイドにメモがあり、よく寝ているので起こさずに行くことと、好きな時間まで部屋を使っていい旨が英語で記されていた。  そして、また会いたい、のあとに携帯番号がひとつ。  力なくメモを放り出し、ため息をつく。  体がひどくだるかった。今日が土曜でよかった。時計を見るともう昼近かった。  祐樹はベッドから出ると、むだに広いリビングや書斎を通ってメインバスルームに行った。  あえて何も考えないように、ぼんやりと頭をからっぽにしてバスオイルを入れてゆっくり湯船に浸かった。  風呂から上がるとリビングに戻り、冷蔵庫から水を出して飲む。クローゼットにかけられていたスーツを着て、タクシーで家に戻った。  祐樹の胸に残ったのは後悔と自己嫌悪だった。  似ているだけの別人だとわかっていたはずなのに、何を期待していたのか。エリックと恋愛関係になる気もないのに。じぶんのバカさ加減に腹が立つ。  ホテルに残したままはまずい気がして、個人情報の入ったメモは持って帰ってきていた。  灰皿のうえで火をつける。  薄っぺらい紙はあっという間に灰になった。  携帯番号は登録しなかった。  二度と彼と会うつもりはなかった。

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