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第11章 祐樹の不安と打ち明け話
思い出したいきさつを最大限、はしょって孝弘には伝えた。
ある人にだまされそうになったところを助けてもらって成り行きで食事をした。翌週、偶然会ってお礼がてら食事をごちそうして、一晩過ごした。それっきり会っていない、と。
祐樹の打明け話を聞いてさすがに不機嫌な顔をした孝弘だったが、それでも精一杯感情を抑えた手つきで祐樹を抱き寄せた。
つき合っていなかった時期の話だから責めることはできないとはいえ、誰かと寝たと知って平静ではいられない。
だがその理由が自分に似ていたからと聞かされて、怒ったらいいのか喜んでいいんだかという葛藤が透けて見えた。
祐樹はおとなしく孝弘に抱きこまれて、肩にもたれかかった。
「いやな話を聞かせてごめん」
「まあ、過去に嫉妬しても仕方ないんだけど」
祐樹を抱き寄せたまま、でも腹が立つと眉間にしわを寄せる。
「ほんとにごめん」
「謝らなくていい。責めたいんじゃない。ただ腹が立つだけなんだ。なんでその時会ったのが俺じゃなかったんだって。そしたら、そんな奴に触れさせなかったのにって」
めちゃくちゃ言ってるな、とつぶやきながら口づけてくる。
押しつけられた唇はすぐに離れた。
「それで、それっきり?」
「彼とはね 。ただ、さっきの秘書が会いに来た」
すこしお時間をいただけませんか、と前回エリックが声を掛けてきた路上で、陳は祐樹に礼儀正しく訊ねた。
面倒なことになったと憂うつな気持ちになったが、下手に出る年上の相手に仕方なく近くのホテルのカフェで話を聞いた。
“単刀直入におききしますが、もう社長とお会いになるつもりはないんでしょうか?”
“社長ってエリックのことですよね? 特にお約束はしていませんが”
確認した祐樹に陳は眉をひそめた。
“ご存じないんですか? 社長がどんな方か”
陳はあきれたようにつぶやき、失礼しましたと言って名刺を出してきた。
受け取って、祐樹はその文字を何度も見直した。
陳の名前のうえには、黄河集団秘書室第一社長秘書と肩書が入っていた。上流階級の人間だとはわかっていたが、まさか黄河集団とは。
“つまり、エリックは黄河集団の社長ってことですか?”
“そうです。ご存じなかったんですか?”
祐樹は天を見上げて、マジかと日本語でつぶやく。陳がいなかったら舌打ちの一つもしていたかもしれない。
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