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「遅くなったね。ご飯、食べに行く?」  予定ではホテルに荷物を置いたら、散歩がてら夕食を食べに出るつもりだった。エリックの話ですこし遅くなってしまったので、そういってみたのだが孝弘は拒否した。 「……その前に祐樹を抱きたい」  真っ直ぐに祐樹を見て、率直に求めてくる。  どこか苦しそうな表情に、祐樹の心も苦しくなる。  隠さないほうがいいと思ったから正直に打ち明けたが、やはり話すべきじゃなかったのか。逆の立場なら、祐樹だって過去の話で仕方ないことだと理解していてもやっぱり苦しくなるだろう。 「ごめん、話してくれてよかったけど、今ちょっとめちゃくちゃ嫉妬してる」  いつもより低い、感情を抑えようとしている声。  孝弘が必死に自制しようと努力しているのがきつく寄せた眉から見て取れた。  何を言っても仕方ない気がして、口を開けない。  謝罪なんか求められていないし、謝ったところで意味がない。でも孝弘の苦しそうな顔を目の前にして、罪悪感がこみ上げた。  どうしようか迷っていると、ぎゅっと強く抱き寄せられた。孝弘の心音が伝わって、祐樹は切なくその鼓動を聞く。 「今すぐ抱きたい。だめ?」 「だめなんてこと、ないよ」  祐樹が孝弘の背中に腕を回す。  あんな打明け話を聞いても、まだ孝弘が求めてくれてほっとしていた。 「みっともないこと言ってるの、わかってるけど。今、したい。でもしないほうがいいのかな、やさしくできないかもしれない」  苦しそうに吐き出す孝弘に、祐樹は自分から口づけた。 「おれは孝弘が欲しがってくれてうれしいよ」  キスをしながら孝弘のシャツを脱がせ、自分もボタンを外してしまう。孝弘から言い出したのにためらうので、ソファのうえで祐樹のほうから体を重ねた。  すでに熱くなりかけている体をすり寄せると、孝弘の手がようやくシャツの内側に入り、背中から抱きしめてきた。  孝弘に嫌な思いをさせたのが心苦しくて、祐樹はひとつ打明け話をする。 「おれのほうこそ、いつも嫉妬して不安に思ってるんだけど」 「祐樹が誰に嫉妬するって?」  孝弘はふしぎそうに首をかしげる。  祐樹と会えなかった5年のあいだに孝弘にも彼女はきっといたはずだ。  孝弘はなにも言わないが、たぶん期間限定ですべてきれいに終わらせたのだろう。もちろんそんな話をわざわざ聞くつもりも咎めるつもりもない。  祐樹が話したのはそれとはまったく別件だった。 「東京本社で事務や営業の女の子たちが、どんな目で孝弘を見てたか気づいてないの?」  予想もしなかったことを持ち出されて、孝弘はあっけに取られた顔をした。

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