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「俺さ、海外で暮らしてわかったのは、人って話すのが大事ってことなんだ。外国人はもちろんだけど、日本人同士だって黙ってたら理解できない。だから祐樹も、言葉を惜しまないでくれる?」
孝弘のいうことは祐樹にもよくわかる。
文化習慣が違う相手との取引では話し合いや言葉のすり合わせが非常に大切だ。
特に日本と中国の場合、両国ともに漢字を使っていることもあって、同じ単語であってもそれぞれ捉え方が違っていることがあり、その調整には非常に気を使う。
もちろん仕事相手だけでなく、人間関係すべてにおいてそれは言える。孝弘は通訳という経験から特にそう感じるのだろう。
会話をしないのは、理解の機会を放棄することだ。それはいつか誤解や別れにつながる。孝弘はそれを心配しているのだ。
「そうだね、うん。ちゃんと話すよ」
5年まえの祐樹は気持ちを隠すためにいつもはぐらかしていた。でもこれからはそんな態度では長続きしない。
きちんと祐樹と向き合おうとしてくれる孝弘に励まされる。そうならないためにも、言葉を惜しむのはよそうと思う。
「好きだ、祐樹。女の子なんか欲しくない、祐樹がいいんだ」
目線を合わせて真顔で言われて、じわじわと祐樹の頬に血がのぼる。
「うん、おれも孝弘が好きだよ。ちゃんと信じてる」
顔を寄せた孝弘の唇が頬に触れて、耳に、顎に、首筋に落ちていく。
孝弘の手に触れられると、火がつくのはあっという間だった。ソファで向い合せに座らされて、キスを交わしながらお互いに触りあったらすぐに昂ぶってしまう。
もったいないな、と耳元でつぶやくのが聞こえた。
「やっぱ抱くのは夜にする。気がすむまでいろいろしたいから、今は触りあうだけ。いい?」
額をくっつけた至近距離で、孝弘がそんなことをささやくから祐樹はその声にもぞくぞくしてしまう。何気なく言われた内容に、体温が上がる。
「ん、わかった」
大きな手があちこちに触れてきて、祐樹を徐々に高めていく。祐樹も孝弘の体に触れて、安心と興奮を同時に感じた。じぶんの手に反応してくれるのがとてもうれしい。
頭のなかが熱く溶けて、勝手に腰が揺れるのをとめられない。孝弘もしたから突き上げるように体を揺らす。
互いの熱を手淫で煽りながら感じ合った。孝弘が目線をそらさないので、それに縫いとめられたように祐樹も外せないままで、お互いの表情の変化を見つめている。
苦しそうにも見える快楽をこらえる顔に興奮した。
「っ、あ、もう、いきそう…」
「うん、俺も」
息をつめて、ふたりでタイミングを計って同時に昇りつめた。
脱力した体を心地よく思う。荒い息遣いが落ち着いたころにキスをして、それから一緒にシャワーを浴びた。
不安も心配も一緒に流されたのか、すっきりと気持ちが落ち着いているのを感じた。
体が触れあうってすごく大事だと思う。
それ以上に言葉や気持ちを交わすのはもっと大事だとも。
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