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「…そう? まあ、うん、孝弘がいいなら」
『いいってさ。どこで会う? ……ああ、いつものとこ。うん、じゃあ、あとで』
話がまとまったらしく電話を切って、このあと会うことになったから、とすこし気まずそうにしている。
「え、いまから?」
「うん、あいつもうすぐ仕事終わるからって。ごめんな、こいつはちょっと断れなくて。というか、ほんとはあした以降にゆっくり紹介するつもりだったんだけど」
「いいよ、友達なんでしょ。会うよ」
「うん、レオンっていう。一緒に会社やってる最後のひとり。留学中に知り合って、俺とぞぞむとレオンの3人で会社立ち上げたんだ」
「そうだったんだ。なんか緊張するな」
「なんで?」
「孝弘の友達に紹介されるなんて初めてだから」
「ああ、そっか。そうだよな、ごめん、急に」
「いいよ、ちょっとうれしい気もするし」
つきあうことになってまだほんの3週間ほどで、ようやく恋人として実感がわいてきたといったところだ。
知り合ってからは5年も経つしお互いを想っていた期間は長くても、実際にはまだ抱き合うようになって間がないし、もちろんお互いの交友関係に踏み込んだことはない。
でもこういうのも悪くないと祐樹はふわりと微笑んだ。
孝弘が苦い口調で釘をさした。
「祐樹、そんな顔、ほかのやつに見せるなよ」
待ち合わせはホテルのバーだった。
奥の個室に通されると、カジュアルなシャツに白いパンツ姿の男が、孝弘に向かって手をあげた。
孝弘と同い年くらいだろうか。人懐こい感じの笑顔でなんだか室内犬を想像させる。くりっとしたまるい目が印象的だ。
祐樹よりすこし背が低くて、くせのある髪をじょうずにはねさせておしゃれに見せている。彼はさっとソファから立ち上がると英語で自己紹介をした。
“こんばんは、レオン・黄(ウォン)です。きょうは急に乱入してすみません。孝弘にはめったに会えないんで、強引に誘ってしまって”
スマートな仕草で握手を求めて、にこりと笑った。
“全然かまいませんよ。高橋祐樹(たかはしゆうき)です。お会いできてうれしいです”
『え、タカハシユーキって? ひょっとして、あのときの人? お前のたかはしさん?』
名前を聞いたとたんぱっと孝弘のほうを向いて、早口の広東語でべらべらべらっとまくしたてた。内緒話をしたいというより、思わず母国語が出たという感じだった。
『そう』
孝弘の返事に、レオンのくりっとした目がさらにまるくなった。
なんだ、「お前のたかはしさん」って? 祐樹も首をかしげた。
『え、まじでそうなの? あの「たかはしさん」なの?』
『そうだよ』
『なんで? どうなってんの。行方不明じゃなかった? あれ? 音信不通だっけ?』
首をかしげながら、孝弘に掴みかからんばかりの勢いだ。
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