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『仕事で再会? ひょっとして去年の夏ごろから、こっちの仕事をセーブしたいって言って来たのってそのため? ぞぞむが孝弘は最重要案件に取り組んでるって言ったのってこのこと?』  なんだ、最重要案件って。そう思ったのに、孝弘はあっさり認めた。 『まあな。ほんとに祐樹と組めるか確証がなかったから、はっきり言えなくて。ぞぞむには事情を話してあったんだけど』 『えー、俺だけ仲間外れなんて水臭いじゃん』  レオンがむっとした顔で孝弘の肩に肩をぶつける。  孝弘は笑いながらそれをいなした。本気じゃない、親しい友人同士のじゃれ合いだとわかるので、祐樹も笑ってみていられた。 『ごめんて。だからレオンに紹介したいと思って祐樹を香港に呼んだんだって』 『祐樹さんはいつ香港に来たの?』  レオンは感じのいい笑顔で祐樹に訊ねた。 『きょうの夕方着いたところ』 『そっかあ。でもほんとによかったね。孝弘ってば、おととい、話してくれたらよかったのに』  実はおとといの夜、客と一緒に食事したあと、ふたりで飲んだばかりだという。  孝弘が向こう2年のあいだ会社の仕事を抜けることになったというので、レオンがどういうことかと心配して話をしたらしい。  孝弘は祐樹の会社と専属になったとだけ話していた。  仕事は昨年の4月に安藤と連絡を取ってから調整してきたことなのでそれほど影響はないが、祐樹のことを隠していたのが水臭いとレオンはすねているのだ。 『あんなに愚痴聞いて慰めてあげたのにさぁ、一言もないなんて』 『悪かったって。ほら、もうその話はいいから』  きまり悪げに孝弘がレオンの話をそらそうとする。  そのあたりは祐樹に聞かせたくないのだろう。 『僕が電話しなかったら、本当は隠しておくつもりだったんじゃないの?』  責めているのではなく、孝弘をからかっているのだ。 『いや、紹介する予定だったって。ただきょう着いたばっかでちょっと落ち着いてなかったからさ。あしたにでもと思ってたけど』 『そう? ていうか、ぞぞむからうわさは聞いてたけどさ』  こんなにきれいな人だったなんてね、とレオンは祐樹をまっすぐ見てあけっぴろげに笑う。男だということは気にならないらしい。 『ぞぞむは留学したときに会ってたんでしょ。僕だけ会ってないのに、香港来てるのに教えてくれないなんて』 『あのときはつき合ってたわけじゃないぞ。祐樹がふつうに寮に遊びに来ただけで。あ、3人で一緒に出掛けたこともあったな』 『あったね。ぞぞむも元気? この前、北京で後ろ姿だけ見たけど』 『元気元気。この夏は新疆(シンジャン)の手織り絨毯とワインの買い付けに回るって張り切ってる』 『そうそう、今朝連絡来て、もう烏魯木斉(ウルムチ)にいるって。あしたは例の絨毯工場に行くってさ』 『はやっ。相変わらずだなー、あいつの行動力。うちの会社はぞぞむでもってるな』 『ぞぞむに振り回されることも多いけど、結局、ぞぞむが一番、頑張ってるのは事実だもんね』  レオンは主に櫻花貿易公司では経理を担当しているので、商品の買付けや工場に出向いたりすることは少ないが、契約の場には同席するといい、孝弘いわく、見かけによらず、ぞぞむにも負けないくらい強気な性格だという。  香港人らしい割り切りのできる現実主義者だとスマートに会話するのを聞いているうちに祐樹にもわかった。10代の頃はアメリカに留学していたこともあるらしい。  櫻花公司の話を聞いたり、孝弘とレオンの北京時代、祐樹の広州、深圳時代の話をしたりするうちにあっという間に時間は過ぎて、店を出たのはもう日付が変わるころだった。  絶対にまた飲もうと約束して、タクシー乗り場でレオンと別れた。 ※いつも閲覧、リアクション、とても励まされています。  連休のせいか、一気読みしてくださる方がたくさんリアクション押してくださってるようです(*^^*)  本当にありがとうございます!  

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