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 ぼんやりと目を開くと、目のまえに孝弘の寝顔があった。腰に腕が回っていて、抱きしめられたまま眠っていたのだとわかる。  目つきが鋭いのでスーツを着ていると大人っぽく落ち着いた印象の孝弘だが、こうやって寝顔を見ると年相応で、やっぱり年下だなあと実感する。  意外と長いまつげを見ているうちにゆうべのセックスを思い出して、ひとりで赤面して悶えた。じぶんがどんなふうに乱れて何を口走ったのか、冷静になるといたたまれない。  食事のまえにもかるくじゃれあったのに、夜のセックスは孝弘の手管に翻弄されて、とても濃厚でふかい快楽をもたらした。  したいようにさせてという孝弘のリクエストだったが、ひたすら祐樹がよくなるようにされたという感じだった。それがしたかったということだろうが、どうにも面映ゆい。  祐樹だって孝弘の気持ちよさそうな姿を見るのはうれしいのに、自分の乱れた姿を見られるのは羞恥が先にたつ。  過去に寝てきた相手とはかるいつき合いだったし、ベッドでどれだけ痴態を晒しても羞恥なんて感じたことはほとんどないのに、これはどういう作用なんだか。 「んー、何時?」  もぞもぞ動いた孝弘が寝ぼけた声をあげた。まだ目は閉じたままだ。 「わからない、おれもさっき起きたとこ」  目を閉じたままの頬をなでて、額に口づける。  孝弘の口角があがって笑みをつくる。 「そっか。…祐樹の肌って気持ちいいな」  すりすりと素肌をすり寄せられて、人肌のぬくもりに安心する。  ゆうべはかろうじてシャワーを浴びたあと、ふたりともそのままベッドに倒れこむように入って眠ってしまった。つまり裸で抱き合っている。 「うん。おれも気持ちいい」  そのまま滑らかな肌の手触りを味わうように触りあった。性感を煽るものではなく、ただ気持ちよさを感じるだけの触れあい。心が落ち着いているのがわかる。  ひとしきりいちゃついたあと、孝弘が伸びをして起き上がった。  とても満ち足りた顔をしていて、それに祐樹の気持ちも満たされる。 「すごく補給された感じする」 「おれも。…でもお腹すいた」 「うん、俺も。飲茶、行こう。せっかくだから、ちょっと出ようか」  散歩がてら歩きながら尖沙咀(チムサーチョイ)に出ることにした。エアコンの効いたホテルから出ると、ほんの10分ほど歩いただけで汗が吹きだす暑さだ。  地下鉄の尖沙咀駅を上がってすぐの彌敦道(ネイザンロード)沿いの飲茶の店は、有名店だからとても混むが、ランチタイムよりすこし早い時間だったので予約なしでもスムーズに案内された。

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