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「友達? いいの?」 「平気。半年だけ香港に語学留学したって言ったろ? その時に互相学習(フーシャンシュエシー)してた子。いまはカナダに留学中で、お姉さんの結婚式で一時帰国してるって」 「ふうん。きれいな子だね」 「サラが同じこと言ってた。祐樹みて、きれいな人だねって」  祐樹はポーカーフェイスを意識して、手に持っていたペットボトルに口をつけた。なんとなく動揺している気がする。  孝弘の説明はよどみなくてとくに不審を抱くような点はない。つき合っていたのかもしれないなと思ったが口に出すのは控えた。過去を詮索してもいいことはない。  きれいな子だと言ったのは本心だった。  ミントグリーンのワンピースからすらりと伸びた足が細くて、華奢なサンダルがよく似合っていた。さらりとした髪にぱっちりとした目、賢そうな女の子だった。  孝弘と向かい合って話している姿は恋人同士だろうと思う自然さで、本来そうあるべきだと祐樹に突きつけた。  だって、孝弘はゲイじゃない。彼女と恋愛することもできるのだ。  あんなかわいい女の子と勝負して、じぶんが勝てるのだろうか。  半歩先の孝弘について通路を歩きながら、埒もないことを考えていると思う。  勝ち負けの問題ではないし、女の子じゃなくて祐樹がいいと孝弘が言ったのだ。  その言葉を疑っているわけじゃない。  それなのに、まだこんなふうに不安になるなんて。  孝弘は迷いない足取りで人混みをすり抜け、だだっ広い海港城(ハーバーシティ)を抜けて、広東道(カントンロード)に出た。外の日差しを浴びて、祐樹が首をかしげる。 「映画、見るんじゃなかった?」  ゆうべ、ここで買ったワインを飲みながらそういう話になった。  きのうは夕方からどしゃぶりのスコールが降って、そのあいだ孝弘に引っ張り込まれたベッドでやさしく触れあって過ごした。触り魔の孝弘は隙あらば祐樹を撫でたがる。やわらかく抱きしめられて、あちこちに軽いキスをされた。  1時間ほどで雨は上がり、夕食は雨上がりの街を散歩して焼臘飯店(シウラッファンディム)(ロースト屋)で軽く食べ、夜はソファのうえでテレビを見ながらワインを飲みつつ、たわいない話をして、のんびりした時間を過ごした。  休暇らしく、恋人といちゃいちゃしながら過ごしたと言えるだろう。  とても楽しかったが、祐樹の頭のすみにはプロポーズという言葉が捺印されたように引っかかっていた。

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