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「見るよ、映画。海港城の3階に映画館はあるんだけど、入口はこっちにあって外から入るんだ」
「そうなんだ。知らなかった」
留学中に来たのだろう、孝弘の案内で専用入口から3階に上がり、上映映画をチェックする。昨年末に公開になった『タイタニック』が香港でも大流行していて、まだ大きくポスターが貼られていた。
「見たいの、あった?」
「あ、うん。これ、どうかな」
「いいよ。音声は…英語だな。北京語字幕のはないみたい。広東語字幕でもいいよな?」
「うん、大丈夫」
祐樹が選んだ映画のチケットを買って中に入った。
日本とは違って観客の反応はおおらかだ。映画館でも遠慮なく大声で笑うし、泣くときもけっこう大っぴらに泣いたり、怒って怒鳴り声をあげたりもする。
ポップコーンやひまわりの種を食べる音がさわさわと聞こえる中、孝弘は当然のように暗闇のなかで祐樹の手を握って、前を見つめている。
その横顔を視界のすみに入れながらぼんやりとスクリーンを眺めた。
ストーリーは単純でたいして集中しなくてもこのレベルの英語なら理解できる。暗がりをいいことに、祐樹はじっくりじぶんの思考に入りこむことができた。
不安になるのは自信がないからだ。
じぶんが孝弘の未来の選択を狭めているのではないかという考えを、どうしてもぬぐえない。
孝弘は祐樹がいいと言ってくれているが、5年後、10年後も果たしてそうだろうか。
どんなカップルにも未来はわからないし、それは性別には関わりないことだと理性では理解している。
男女で結婚したって離婚する家庭などいくらでもあるし、男同士で添い遂げる覚悟の友人カップルだって知っている。
昨日言われた言葉からして、孝弘は祐樹が考えていたよりもずっときちんと将来を見すえているようだった。いつかプロポーズする気でもいるらしい。
その気持ちはうれしいが、同時に戸惑いも生んだ。
そこまで思われて喜ぶべきなんだろうと思う。
もちろんうれしい気持ちもあったが、それ以上に本当にそれでいいのかと不安がよぎる。今だけだと、期間限定のつもりでいたほうがいいんじゃないのか。
孝弘だって言っていた。留学生の恋愛は相手の帰国で終わる期間限定のものだと。
駐在員だって同じじゃないのか。プロジェクトは2年の予定だ。2年後、孝弘とどうなっているか、祐樹は怖くて想像できない。
今だけだと割り切ったほうがかえって安心な気がするくらいだ。
ああやって女の子と並んで立っている姿を見ると、なおのこと、じぶんでいいのかと逡巡する。でもだからといって、別れることは考えたくない、いや考えられない。
孝弘はとっくに覚悟を決めているようなのに。
どうしてこんなに気持ちが定まらないんだろう。もっとどっしり構えて、孝弘との関係を深めていこうと思うのに、孝弘の覚悟を見せられて怯んでしまうのは何故だろう。
きちんと彼と向き合おうと決めたはずなのに。
臆病なじぶんが嫌になる。
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