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出会った時、エリックは社長に就任したばかりでまだあまり顔を知られていなかった。
当時は会長として前社長が経営陣に残っており、彼がトップという認識があったから社長といってもエリックは比較的気楽な立場でいられたのだろう。
その会長が先日、引退したことは祐樹もニュースを見て知っていた。おそらく今エリックは多忙を極めていて、身軽に外出できる状態ではないはずだ。
“お元気そうで何よりです。その節はお世話になりました。…その後の仕事のことも”
“ああ。…あれはきみを怒らせたらしいな。そういうつもりはなかったが、誤解は解いておきたい。きみへの好意を示しただけだったんだ”
“怒ったというか……、見返りみたいでちょっと気に障っただけです。仕事自体はありがたく思っています。少なくともあの案件のおかげで私の社内評価はあがりました”
“そうか、それならよかった”
顔もスタイルも美しい人形のような女性がコーヒーを運んできて、ふたりともしばらく黙った。
コーヒーに口をつけ、エリックが近況を訊ねた。祐樹は現在は東京本社にいること、近いうちに大連に赴任することを話した。
“大連か。冬は寒そうだな”
“ええ。路上でアイスクリームや冷凍食品がそのまま売られているそうですよ”
“そんなに寒いのに、アイスクリームが売れるのか”
“室内は20度くらいらしいですからね”
孝弘に聞いた話だ。外が耐えられない寒さなので、屋内は全館暖房で快適らしい。
しばらく世間話をした後、祐樹が穏やかに訊ねた。
“どうして私を呼んだんです?”
“会いたかったから”
祐樹の訝しげな目線に、エリックは両手を広げて降参のポーズを示す。
“本当だよ。あれっきり会ってもらえないとは思っていなかったからね。あの日、無理やり起こしてでも声をかければよかったと何度も後悔したよ”
“そんなにご執心のようには思えませんでしたが”
お互いに何となく気になる存在で、恋愛感情なんてものが芽生える前の段階だった。
たまたまタイミングがあったから一晩過ごしただけで、好き嫌いを考えるような存在ではなかったと思う。
“確かにね、ただなんていうんだろう。執着するまえに後ろ姿だけ残して逃げられた気分というのかな。もう一度顔が見たかったのにって未練が残った感じだったな”
コーヒーに口をつけて、きみは?とエリックは質問した。
“私は…寝るんじゃなかったと後悔しました。確かに似ていたけど別人だとわかっていたのに、と。連絡できなかったのも自己嫌悪からです。あなたに非があったわけではありません”
“では、きょう会ってくれたわけは?”
“私もあの日、何か忘れ物をしたような気がして。いつかもう一度会えたらと思っていました”
“そう。……忘れ物は見つかった?”
“ええ、あなたにお礼とお別れを言いたかったんだとわかりました”
※今日は中秋節!
孝弘と祐樹にとっては特別な日です♡
二人は今年、どんな中秋節を過ごしているのでしょうか(^^)
今年は国慶節も重なったので、中国では盛大にお祝いしていることでしょう。
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