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第17章 旅行の記念品

 そうして連れていかれた海洋公園は、祐樹がびっくりするくらい楽しかった。  山頂に向かうケーブルカーからの眺めは想像以上にきれいで、昨日の海水浴といい、祐樹が持っていたオフィスビルと買い物とグルメという香港のイメージを完全に覆した。  孝弘に誘われておそるおそる乗ってみたジェットコースターは案外平気、というよりとても爽快だったので、かなりの数のアトラクションを攻略した。  こういうレジャー施設に孝弘と来たのは初めてで、たくさんの笑顔とどきどきとわくわくをもらった。カップルがデートでテーマパークに来たがる気持ちってこういうことか。  観光客らしくマンゴーアイスやフルーツ入りタピオカミルクを片手に、広い園内を歩き回った。  動物園に水族館、イルカショーなど一通り制覇して、遊び疲れて心地よく疲労した体で日が暮れるころに帰途についた。  夜の天星小輪(スターフェリー)で香港島から九龍に向かいながら、風に吹かれて短い船旅を楽しむ。  フェリーからの夜景はなぜかすこしノスタルジックだ。波の揺れが心地いい。 「夜はすこしだけ、時間かかるんだって」 「え?」 「天星小輪、夜のほうがすこしゆっくりなんだって聞いた。ほんとか知らないけど」  香港の粋なサービスということなのか。    どちらにしても10分もかからないけど、と孝弘がビル街の夜景をバックにすこし疲れをにじませて、でも満ち足りた顔でふわりと笑う。  その顔を見て香港に来て、本当によかったなと唐突に思う。  祐樹が知らなかったたくさんの孝弘を見せてもらった。  きっと孝弘も同じように思っているだろう。  尖沙咀に戻ると、次は孝弘おすすめのマッサージ屋に連れていかれた。  マッサージと言っても祐樹が会社の接待で連れて行かれる女の子がいるような店ではなく、ひたすら健康的に全身を揉みほぐしてくれるものだ。  薬草入りの足湯のあとアロマオイルをなじませて、足裏からふくらはぎからひざ下までをじっくりとマッサージされた。  その後、狭いベッドにうつぶせにされて、背中や腰を踏まれていく。  疲労した筋肉がほぐされていくのがよくわかって、眠りそうになるほど気持ちがいい。  1時間半ほどのマッサージで一日中歩き回った体がとても軽くなっていた。 「なんか、全然知らない国に来てるみたい」  こんな香港もあるんだなと思う。

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