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 何度も出張で訪れているのに、ここ2日はまるで違う国に来ているようだった。となりのソファでマッサージ後のハーブティを飲んでいる孝弘がにやっと笑った。 「観光も悪くないだろ」 「うん。優秀なガイド付きで楽しいね」 「これが終わったら、ご飯食べに行こう。何が食べたい?」 「んー、ちょっとずついろいろ食べたい感じなんだよね。やっぱ屋台かな?」  昨日の高級レストランは料理も夜景もとても良かったけど、孝弘と一緒に街をふらふら散歩して、屋台の土産物をひやかしたり買い食いして回るほうが祐樹は好きだ。 「じゃ、ひとまず出ようか」  精算を終えた孝弘の声に、祐樹はうなずいてサンダルを履きなおした。  通りを歩きながら、通りすがりにあった大きな中国系デパートに入った。  中国系デパートは、世界の一流ブランドショップが並んでいる大型ショッピングセンターとは品ぞろえがまったくちがっている。  繊細な切り絵の額や水墨画や掛け軸、石から選んで彫ってもらう判子屋、七宝焼きの小物入れやライターケースや花瓶、翡翠や金のネックレスや腕輪、ピアスやネクタイピンなどのアクセサリー。  コースターから絨毯サイズまでさまざまな刺繍製品、何種類ものお茶、朝鮮人参や鹿の角などの漢方材料、真珠クリームや漢方薬入りの化粧品。  陶磁器の壺や食器や茶器のセット、シルクのシャツや下着類、もちろんチャイナドレスのオーダーコーナーまで、ありとあらゆる中国チックな商品で埋め尽くされていた。 街のど真ん中にあるせいか中国らしいみやげ物も人気があるのか、外国人観光客も多くいて、大きな買い物袋をいくつも下げている。 「案外、こういうふうに中国の商品を見たことってないかも」 「国営デパートはここまできれいに並んでないし、露天は安いけど質が落ちるし、やっぱ香港だから本土に置いてるのより商品の質がいいんだろ」  中国本土よりはるかにきれいな陳列の中国製品は、なかなか興味深かった。 孝弘が雑貨の品質をチェックする目つきは仕事用の顔だった。そうだ、櫻花貿易公司は雑貨類をメインに取り扱っているんだったな。 「事務の子たちに何か買おうかな」 会社用のみやげにお茶やクッキーは買ったけれど、事務でお世話になっている女子社員数人になにか小物でも買おうかと思いつく。

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