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 祐樹が必要以上にかまえないように、日常使いの物を選んでくれたのだ。その気遣いに申し訳ないような気持になる。  でも見上げた孝弘の表情はやわらかなもので、ごくふつうに買い物を楽しんでいるようだったので、祐樹もにっこり笑ってうなずいた。  中国らしく金(もちろん目にまぶしい純金)や天然石や翡翠のものがずらりと並んでいる。  色鮮やかな七宝焼きのまるい玉のストラップはきれいだったが、男が持つにはかわいすぎる気がする。魚や蝶や花やパンダがデザインされたものが多い。 「これは象牙? のはずないか。なんだろう?」  乳白色のちいさな龍の彫刻のキーホルダーを手に取って、祐樹は首をかしげた。  色は象牙に似ているがとても軽いし、象牙にしては値段も安すぎる。店員に訊いてみると牛骨でできているという。 「こういうのもありますよ」  店員が出してきたのはやはり七宝焼きだが、楕円形の平らな板状のまんなかに亀が配置されたキーホルダーだった。甲羅が色とりどりで中国っぽくもあり、なかなかきれいだった。 「へえ、こういうデザインもあるんだ」 「気に入った?」 「うん、いいかも。大きさも手ごろだし色もきれいだし。蝶や花は持ちづらいけど、亀ならいいかも」 「じゃ、これにしよう。鍵につけたらいい感じだろ。配色がひとつずつ違うから、好きな色の選んで、あ、やっぱ祐樹は俺のを選んで」 「おれのは孝弘が選ぶの?」 「そう」  七宝焼きの甲羅はひとつひとつ色が違っていて、ふたりでそれぞれ相手の持つ亀を探した。  じぶんの選んだ亀が孝弘の鍵につけられると思うと、案外真剣になってすこしの配色の違いも見比べて、たったひとつを探した。  孝弘もいくつかの亀を見比べて、祐樹のものを選び出した。  満足のいくひとつを選んで顔を上げると見守っていた孝弘と目が合って、真剣になっていたじぶんが照れくさくなった。 「決まった?」 「うん、これ」 「ありがとう。きれいだな。祐樹のはこれな」 「うん、ありがとう。うれしい」  孝弘が選んだ祐樹の亀は紺と水色がベースでそこにうすいピンクや黄色が挿し色に混ざっている。祐樹が渡したのは、深緑や黄緑がメインにオレンジと黄色が入っている。

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