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家に入ろうとカバンから鍵を出して、祐樹は無意識に微笑んだ。鍵には色鮮やかな七宝焼きの亀のキーホルダーが付いている。
恋人とペアのものを持ちたいなんて考えたことはなかったのに、孝弘とお揃いだと思うと悪くない。孝弘の選んだ亀だからだろうか。
ふと昔の恋人を思い出した。
祐樹が大学時代につきあった初めての同性の恋人は、誕生日やクリスマスに祐樹にいろいろな物をプレゼントしてくれた。
10才も年上だった彼は、大学生になったばかりの祐樹にオーダーのシャツや革職人手作りの財布など、今まで持ったことがないような品物を贈ってくれた。
そういった服や靴、カバンなどはまったく同じではないが色違いだったり、デザインがすこしちがったりと、ようするに揃いのものを選んでいた。
おおっぴらにつきあっているとは言えないから、せめてこっそりお揃いを持ちたいんだという、その気持ちを当時はあまり理解できなかった。
美意識が高い彼が選ぶ品物は質がよくてとても上品で、贈り物は大事に使ったが、それを持っている祐樹を見て彼がうれしそうに笑うのは不思議な気がしていた。
あの頃、祐樹の情緒はまだ不安定で、恋人の存在は素直にうれしかったけれど、戸惑いや背徳感も今よりずっと強かった。
高校時代の先輩とセフレのような関係を持っていたことがあったにも関わらず、恋人らしい行動や触れあいにはずいぶん消極的でぎこちなかったのだ。
でもいま、孝弘とお揃いというだけでちいさなキーホルダーひとつに笑顔になるじぶんがいる。
当時の恋人が言っていたのはこういうことだったのかと、いまになってようやく彼の気持ちを理解した。十年前のじぶんはかたくなで、自意識過剰だったのだと思う。
手のなかのキーホルダーを見ると、旅先で一緒に選んだという思い出もセットでよみがえってきて、心のどこかやわらかな部分がほこほこと温かくなる。
孝弘もこんな気持ちを味わっているんだろうか。
だとしたら、とてもうれしいような、ふわふわするような心地になる。
じぶんにこんな乙女チックな思考が備わっていたとは思いもよらなかった。照れくさくはあったが、誰にわかるわけでもない。
祐樹はそう開き直ると、キーフックに鍵をかけた。
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