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「1カ月も会えないなんて、寂しいなー」
孝弘が子供のような口調で甘えてくるのに、祐樹はくすぐったい気持ちになる。
いつも祐樹を連れまわしてくれるしっかり者がぐずぐずと甘ったれる姿は貴重で、ついつい頭を撫でてしまう。孝弘がうれしそうな顔をするから、調子に乗って犬でも撫でるみたいに髪をわしゃわしゃする。
それでも孝弘は機嫌よく、すりすりと祐樹にすり寄って笑っている。
「5年も会ってなかったのに?」
乱れた髪に指を通しておでこをくっつけた。
「だよな。5年に比べたら1ヶ月なんて大したことないはずなのになー」
ちゅっとキスされて、頬を撫でられた。あまい仕草にどきどきする。
祐樹のおすすめの寿司屋で夕食を食べて、部屋に戻ってビールを飲みながらのんびりしていた。でもこんな時間もしばらくは持てない。
孝弘の出発は明日だ。
「うん。おれも寂しいよ」
「早く来て。待ってるから」
「うん」
5年も離れていたのが嘘のように、一緒にいるのが自然に思えるようになっていた。
仕切りのじょうずな孝弘に、甘ったれの祐樹はほどよく振り回されている、いやうまく操縦されているというべきだろうか。それがあまりに自然で居心地がいい。
「あれ、無事だったんだ」
クローゼットから出してあった包みに気づいて、孝弘が驚いた顔で祐樹をふり向いた。
「うん。あの時の運転手が、わざわざ病院まで届けに来てくれた」
ぞぞむの刺繍工場でもらった両面刺繍の包みだった。
「せっかくきれいなものだから、中国に持って行って飾ろうと思って。梱包解いたら、あんなふうにきっちり包めそうもないから、そのまま置いてたんだ」
時間のあるうちにと、祐樹も荷物の整理を始めていた。もともとそれほど物がないから大した手間はかからない。ただあちらに持っていきたい書籍や資料などの整理には時間がかかっていた。
「空港まで見送りに行けたらよかったんだけど」
孝弘はきのうウィークリーマンションを解約して、今晩はここに泊まることなっている。明日は青木と成田で待ち合わせをしているし、仕事がある祐樹が会社を休むわけにもいかない。
しばらくお別れだと思うと、寂しくて胸がきゅうとしてくる。恋愛には淡泊なほうだと思っていたのに。じぶんは本当に変わったと実感する。
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