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第4話

4 苦悩 「寺崎先生、相談があります」 突然入口に現れた見知らぬメガネの男子生徒に、俺は思わず眉を寄せた。 見知らぬ、というのは若干語弊があるな、見たことはある。白木と一緒にいるのを何度か見かけたな、名前は………、知らん。 数ヶ月前にも同じことがあったぞ。 あの時は相手が白木だったから、招き入れたが。 「断る、帰れ」 なぜ俺が相談に乗らねばならん、面倒だ。 さっさと帰れ、もうすぐ白木がくる。 「そうはいきません」 男子生徒はずかずかと怒りも顕に入り込んできた。 「許可してないぞ」 図々しい奴だ。 「俺の友達のことです」 知るか、興味もない。 「断るといった」 俺はつかつかと歩み寄ってくるガキを睨みつけた。 だが、ひるむ様子はない。 なるほど、度胸だけはあるようだ。 「白木智紀です」 「…………」 こいつ、なんだ。 メガネの奥にぎらりと目を光らせて、俺を睨みつけてくる。 「彼に最近恋人が出来たようです」 机の横まで来て、俺を見下ろす。 こいつ…。 何が言いたいんだ。 「お前らぐらいの年なら珍しくもないだろう」 「相手が女なら、俺も良かったな、で済ませるはずでしたが、相手が男らしいのです」 「……そうか。それも思春期にはありがちな」 「相手は先生ですね」 「………」 俺が黙り込むと、メガネを押し上げる。 「とぼけても無駄です。白木が白状しました」 そうだろう。 あいつは男を好きになった、付き合っているということにさほど罪悪感を感じていない。 好きなものは好き、たまたま好きになった相手が男だった、好きな相手と付き合って何が悪い、ぐらいの考え方だ。 きっと簡単に口を滑らせたに違いない。 「…で?」 「先生は教師ですよね⁈教師が生徒と付き合うなんておかしいと思います」 そんな当たり前のことをわざわざ言いに来たわけじゃあるまい。 「そうだな、それで?」 「…別れてください…」 それが本題というわけだな。 俺は腕を組んで、メガネ野郎を見上げた。 「同じことを白木にも言ったんじゃないのか」 「…言いました」 言い当てられ、さも不本意だと言わんばかりの声色だ。 俺を誰だと思ってる、寺崎朔弥だぞ。 ガキの考えそうな事ぐらい、手に取るようにわかる。 てのはちょっと違うな、だから俺のところに来たんだろう。 ちっ、いらいらする。 「それで?」 「………」 メガネ野郎は答えない。代わりに眉がピクリと動いた。 「嫌だ、もしくはお前には関係ない、そんなことを言われた。違うか?」 「………」 メガネ野郎は唇をぎゅっと噛みしめる。 「俺も同じことを言おう。お前には関係ない。俺と白木の問題だ」 「………っ」 メガネ野郎はぐっと拳を握り締めた。 「関係なくはない!あいつは俺の親友だ!親友が道を踏み外しているのに黙って見ているわけにはいかないんだ。あいつは頑固だから俺の話は聞かない、だが、先生、あんたは大人だろ⁈これがどれだけ間違ってるか分かってるはずだ、なら、大人として」 「別れろ、と?」 俺はメガネ野郎を睨みつける。 「あいつを解放しろ!これ以上手を出すな‼︎」 手を出されたのは俺なんだが。 まあ、その間違いを正す気にもならん。 これは嫉妬だ。 こいつは友人を取られた嫉妬を俺に向けている。 ムカつくやつだ。 ただでさえ俺は虫の居所が悪いんだ。 これ以上、イラつかせるな。 「それで?手を引かなければどうする?密告するか?俺が淫行で逮捕されることを白木は嫌がったが」 「~~~っ!」 白木の話を持ち出すと、案の定、黙り込んだ。 「お前は俺が白木を誑かしたとでも思ってるのか」 「…他に、白木があんたなんかを好きになるはずがないっ」 はず? そう言えば、理由を聞いたことはなかったな。 「それは俺も聞いてみたい」 思わず口から出た。 「………」 メガネ野郎が眉を寄せた。 「残念だが、誑かした覚えはない。白木がここに勝手に入り浸り始めただけだ。…理由は知らんが…」 「じゃ、じゃあ、弄んで」 「弄んでない。俺は男色家じゃない。わざわざ男を誑かして弄ぶ趣味はない」 「…………」 メガネ野郎は視線を彷徨わせる。 「他に反対する理由を探しているようだな。お前は俺に嫉妬をぶつけたいだけに過ぎん。何かと理由をつけ、別れさせたいだけだ」 「違う!これは間違ってるんだ!だから俺は」 こいつ、もしかして。 …知るか、構ってやる義理もない。 むしろ徹底的に打ち砕いてやりたいぐらいだ。 いかん、本格的に苛ついてきた。 相手は子供だ、生徒だ。 言い聞かせる。 「それなのにあいつはあんたの話ばかり…。楽しそうに話して。完全に自分を見失ってる。あいつは優秀なやつなんだ、あんたがいなければ」 本当にイライラさせる奴だな。 なかなか引かない。 頑固者の親友は頑固者か。 俺のその辺の水溜りより狭い寛容な心が、降り出した雨の一滴のようにさらに小さくなる前に、消えろ。 「ああ、そうだな。俺も同感だ」 「え?」 「これは間違ってる。俺は教師だ、生徒と付き合うなど許されん、別れるべきだ。わかりきっていることをグズグズ言うな。同じことは白木にも話した。だが、あいつの気持ちは変わらない。変わらない以上、お前同様、俺にもどうしようもない」 畳み掛けるように早口でまくし立てると、メガネは少したじろいだ。 「それは、先生が」 「別れると言えばいいと?」 無意識に声が低くなった。 「そ、そうです」 「嘘になる。白木に嘘はつけん。…すぐ、見破られるだろう。そうゆう勘は働く」 他はぜんっぜんだけどな。例えばお前のこととか、俺の状態だ。 いかん、大人な対応で…。 ちっ。 馬鹿らしくなってきた。 「残念だが、お前の期待には添えん。遊びでは、あの白木の相手はできない」 まっすぐで真剣な白木の気持ちに、半端な気持ちで向き合えるはずがない。それぐらいなら、俺はこんなにハマらない。 「でも」 なおも食い下がるメガネに、ますますイラつく。 「いい加減にしろ。お前のその感情は本当に友情か?」 「なっ」 メガネ野郎が真っ赤になる。 ほらみろ、図星だ。 「白木と俺を別れさせて、お前があいつと付き合うのか」 「ち、ちが」 「何が違う?お前は俺と代わりたいんだ。白木が男もイケるなら、自分でもいいと思ってる。むしろ年上で評判の悪い俺よりも、自分の方が相応しいと思ってるんだろう?」 「………」 メガネ野郎は真っ赤になって俯く。 「白木を抱きたいのか」 ぐっと握り締めた拳が震えている。 「…抱かれたいのか…」 そう言うと、真っ赤な顔を上げ睨みつけてくる。 「なるほど、抱かれたいんだな」 苛つきも最高潮だ。 ムカつく、反吐が出る。 「ち、ちがう!勝手に決めるな!」 「白木は俺を抱くぞ」 子供相手に大人気ない。 それは分かっている。 だがこの子供は自分がどれだけ有利か分かってない。 いつも当然の顔で白木の隣にいる。友人という地位を利用して、共にでかけたりできる。 こんな限られた場所で、限られた時間だけしか会えないなんてことも無い。 卒業まで待つ、なんて真似もしなくて済む。 「白木がどんな風に俺を抱くのか、聞きたいか」 これは嫉妬だ。 「それを聞くのは、お前には拷問だろう。それ以上、食い下がるなら、事細かに話して聞かせてやるが」 俺はこの子供にあたっている。 嫉妬して、苛つきの解消に使っている。 「譲る気は無い。分かったら、とっとと出て行け」 メガネ野郎は真っ赤になって、身を震わせ、だが聞きたくなかったのだろう、踵を返して去っていった。 俺は溜息を吐いた。 あんな嫉妬に狂った馬鹿な子供をいびったところで、苛つきは収まらない。 寧ろ煽られただけだな。 「水田!お前なんでここにいるんだ」 白木の声がした。 「おい、水田⁈」 そして入口に姿を現した。 タイミングの悪い時に現れたな。 苛つきの元凶が。 「先生、あいつ何しに来たんですか」 白木は後ろ手にドアを閉めて近付いてくる。 もう少ししてから、現われれば俺も収まっていただろう。 「実は、この間あいつにうっかり先生とのこと話しちゃって」 机に頬杖をついて、いつも通り白木が椅子に座るのを待つ。 期待通り白木は診察用の椅子に腰を下ろした。 ふわっと白木の匂いがした。 俺の中のどこかで、何かが切れるような、スイッチが切り替わるような音がした。 ちっ。 思わず舌打ちをした。 「先生?」 俺の舌打ちが聞こえたんだろう、白木が覗き込んできた。 「あいつ、なんか言いました?」 「白木、手を出せ」 俺が言うと、深く考えることもせず素直に手を出してみせる。 よし。 お前は素直ないい子だ。 俺はその手を掴んで、こっそりベルトを外したズボンの中へ入れた。 「ん」 久しぶりの白木の手の温もりに、思わず震えが走る。 「ななな、何を⁈」 片方の手で白木の頭を引き寄せて、口付ける。 久しぶりの白木の舌の感触に、夢中になって絡め、口内隈なく舐め上げ犯す。 深く舌を絡めて離すと、濡れた音がした。 「先生、えっと、いいの?」 「いい、動かせ」 白木がおずおずと手を動かし始める。 白木の唇に吸い付きながら、言う。 「もっとちゃんと動かせ」 斜めに顔を傾けてゆっくり見上げると、白木がかあっと顔を赤くした。 可愛いやつだ、これくらいで。 簡単に落ちてくる。 「なんなんですか、一体…」 白木の手が俺の頭の後ろを掴んで、強く唇を吸われた。 「ふぅ、ん、ふ」 鼻から吐息が漏れる。 一度落ちてしまえば、あとは俺の思い通りだ。 白木の手が、俺の性器の先端を擦り、根元までずっと滑り落ちる。 そこから絞り出すように扱かれる。 すでに先走りで濡れた俺の性器が、白木の手の動きに合わせ、濡れた音を立てた。 「ふぁ、あ、んん、いい、しらき」 わざと誘うような甘ったるい声を出せば、さらに白木が赤くなる。 唇を食むように吸われ、ペロリと舐められる。 じんとした痺れと、疼きが下肢に降りていった。 大きな手が俺を包んで、扱き、時々先端をぐりっと引っ掻く。 「はあ、ん、もっと、つよく、だ」 「先生っ」 白木の鼻息が荒い。 いいぞ、白木が興奮したように呼べばそれは俺の媚薬になる。 余計に興奮する。 「ん、ん、くぅ、ああ、いい、しらき」 白木が舌を俺の口に差し込んできた。俺はそれに舌を絡ませ、吸い付く。 音を立てながら舌を絡め、吸い合う。 白木の手が動くたび、俺が漏らした液で卑猥な音を立てる。 やらしい水音が俺たちの官能を刺激した。 「ん、い、んあ、でる」 絶頂が近い。 「寺崎先生」 白木の熱のこもった声が、一気に俺を押し上げた。 「あ、ああっ」 俺は白木の手の中に吐き出した。 思わず白木の制服を掴んで、胸に頭を落とした。 全力疾走したみたいに肩で息をする。 やっぱりそんなに保たなかったな。 「はあ、は、はあ、す、っきりした」 思わず口を突いて出る。 「はあ⁈」 しまった。 「先生、今僕のこと道具にしませんでした⁈」 白木が怒っている。 初めて見たな、その顔。 「…わ、悪かった」 ついイライラして。 苛つきの原因はお前にあるんだから仕方ないだろう。 勝手な言い分だが。 欲求不満なんだ、ずっと。 俺だって白木に触れられたい。 そんなことをずっと考えていた時に、あのメガネが現れて刺激するから。 …………。 酷い言い訳だな。 「………挿れさせてください、そしたら、ゆる」 「ダメだ」 即座に答える。 「~~~~っ!自分ばっかりっ」 白木がブスッと顔を歪ませる。 「悪かったと言っただろ。ちゃんとお前もしてやる」 「そうじゃなくて~~っ」 顔を歪ませ、首を振る。 子供が駄々を捏ねてるみたいだ。 困ったもんだ、そんな顔さえ可愛いと思うんだからな。 ………ハマり過ぎだ、な。 さて、侘びの印に心尽くしのサービスをしてやる。 「どっちだ?手か、口か」 選べ。 ん? 白木を覗き込む。 まあ、返事は分かっているんだが、一応な。 「…口…」 期待通りの返事に俺はペロリと唇を舐めた。 それから白木の股間に顔を埋める。 チャックを下ろして、取り出した白木の性器の先端にキスをする。 白木の手が髪に絡まってきた。 もう慣れてきた愛撫を施すため、口を開いて白木を深く飲み込んだ。 欲求不満で我を忘れるとは、我ながら情けない。 こんなんで、白木はともかく俺は待てるのか。

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