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ティアリーレイン(涙の雨) 第24話(村雨)
――
待ちに待った中学校の修学旅行の最終日前夜。
楽しい思い出になるはずのこの日、俺はひとりぼっちになった――
少し早めの夕食を食べ、布団を敷き詰めた部屋に帰った村雨は、自分の風呂タイムが来るまで友人たちと定番の枕投げをしてはしゃいでいた。
そこに突然、青ざめた顔をした担任がやってきて、村雨を呼び出した。
「気をしっかり持って聞きなさい。今日の夕方、学校の方に警察から連絡があったらしいんだが……ご家族が乗った車が事故にあって……全員――……」
なんの冗談かと思った。
クラスのやつらがドッキリでも仕掛けているんだろう?
みんなどこかに隠れていて俺がショックを受けている顔を見て笑っているんだろう?
だが、普段陽気な担任は見たことないような悲痛な顔をして村雨を見ていた。
「おい、村雨?大丈夫か?聞こえてるか?」
「え……あ、はい……」
「俺も詳しい内容はよくわからないんだが、とりあえず今から一緒に帰るから、すぐに荷物を持ってきなさい」
何が何だかわからないまま荷物を持って担任と駅に向かった。
途中から雨が降ってきて、地元に着いた頃にはどしゃ降りになっていた。
駅に迎えに来ていた教頭と落ち合うと、その足で二人に付き添われて身元確認に行った。
村雨は、白い布を被せられた家族の姿をまるでドラマでも見ているかのような気分で見ていた。
つい数時間前まで、みんな普通に生きていた。
10歳離れている妹は近頃少し生意気になってきて「にいにはあっちいって!」とあまり引っついてきてくれなくなった。
でも、修学旅行に行く朝は「ひとりでねんねするのがさみしかったら、かえってきてもいいよ?」と言いながら、自分の大事にしているキャラクターのシールを財布に貼ってくれた。
動かなくなった小さな手に触れると、びっくりするほど冷たくて思わず手を引っ込めた。
村雨の知っている妹の手は、小さくて柔らかくて温かくて……
こんな人形みたいな手、あいつの手じゃない!
大好きな妹も、両親も、そこに横たわっているのは村雨の知らない何か別のもののようで、その後はもう触るどころか、顔を見ることもできなかった――
村雨は駆けつけてくれた親戚に手伝ってもらいながら淡々と葬儀の手配をした。
周りはみんな、家族を亡くしたのに全然泣かない俺を「涙を堪えて気丈に振る舞っている不憫な子」と言った。
俺は別に涙を堪えてなんかいない。
気丈に振る舞っているわけでもない。
頭の奥が痺れて、何も感じなくなっていた。
「悲しい」とか「寂しい」とかそういった感情や涙腺は、全部まとめて雨に流されてしまったらしい。
俺の今後について親戚が話し合っているのを、他人事のように眺めながら、
明日の朝のパンってあったっけな……
と、考えていた。
――
家族が亡くなった日から、1週間。
梅雨でもないのに、ずっと雨だった。
どしゃ降りだった雨は次第に細く針のような雨に変わっていき、しとしとと地面を濡らしていた。
どんよりと広がる低い雲といつまでも続く雨。
ずっと変わらない景色に、灰色の世界に閉じ込められたかのように感じた。
何もかもが、嘘くさい。
こんな悪い夢、早く覚めればいいのに……
家族の遺品を整理した時も、親戚の家にお世話になるために家を出た時も、涙は出なかった。
一向に泣くことのできない村雨の代わりに、静かに空が泣いていた――
1週間後、空が泣きつくしても村雨の涙は出なかった。
青く晴れた空を見上げ、ただ漠然と
あぁ、俺は置いて行かれたんだな……
と思った――
***
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