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出会い 第3話
「いらっしゃいませ……うわ、雨すごいですね、服濡れていませんか?あの、良かったらこれ使ってください」
ヨロヨロと入って来た村雨に、カフェのマスターらしき男がタオルを渡して来た。
「あ……ありがとうございます」
タオルを首にかけて先に折り畳み傘をビニル袋に入れようとしていると、その男が村雨の手からやんわりと傘と袋を奪い取った。
「後はやっておくので、お好きな席にどうぞ」
「え、あ……すみません……」
口調は丁寧なのになんだか無理やり貼り付けたような笑顔を見せたのが気になった。
何か怒ってる?
店に入る前に袋に入れておけば良かったのか?
マスターは好意でしてくれたのだと思うが、今の村雨は些細なことでもマイナスに考えてしまう。
「お兄さん、気にしなくていいよ。マスターがやってくれるって言ったら、任せておけばいいんだよ。ここのマスターね、ちょっと人見知りなんだよ。だから初めてのお客さんにはちょっとだけ笑顔が硬いんだよね~」
カウンター席に座っていた常連らしき客の言葉に、少しほっとする。
そうか、別に怒っているわけではないんだな。
「え、わたしまた笑顔ダメでしたか!?」
マスターと呼ばれた男が村雨の折り畳み傘をタオルで拭きながら、常連客を見た。
タオルは真っ白で、どう見ても傘を拭くような雑巾には見えない。
あぁ~……そんなキレイなタオルで拭かなくても……ボロ雑巾でいいんだけど。
というか、もうそのままビニル袋に入れてくれていいのに……
白いタオルが汚れているのを見て、なんだか申し訳ない気持ちになった。
今度から店に入る前にビニル袋に入れるようにしよう……
「ダメだねぇ。ちょっと強張ってたよ、笑顔も動作も」
「え~……わたし今回は自信あったんですけど……あ、すみません、お好きな席にどうぞ!」
二人の会話に挟まれてキョロキョロしている村雨を見て、マスターが慌てて手振りつきで店内に案内してくれた。
え~と、空いてる席は……
こぢんまりとした店内をざっと見渡すと、村雨の他にはカウンター席に1人、窓際に1人の合計3人しか客がいなかった。
村雨は一番奥の窓際の席に座った。
なんとなく窓が気になったからだ。
あ、これってなんていうんだっけ?
たしか……デザインガラスだ!
最近はあまり見かけないが、昭和頃の日本家屋によく使われていた模様の入ったガラスのことだ。
この模様……昔うちにあったやつに似てるな……
なんとなく懐かしくなってガラスの模様を指でなぞった。
「それ結晶柄のデザインガラスなんですよ」
「ふぇっ!?あ……あぁ、そうなんですか?」
突然背後から声をかけられて、変な声を出してしまった。
振り向くと、なぜかマスターもびっくりした顔をして立っていた。
「はい、そうらしいです。あの……驚かせちゃってすみません。え~と、お客様の傘、帰られる際にお渡ししますね」
「あ、はい……」
マスターがにっこりと笑った。
先ほどよりは若干柔らかい表情になっていた。
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